8. 最後に6. 製薬企業として問われる技術導入のスタンス7. 生物研究者・創薬戦略的な観点で14構造からポケットを捉え、化合物を合理的にデザインすることができる。しかし、mRNAのSpliceModulationを促すmRNAとRBPのMolecularGlueでは、TargetEngagementの効率的な確認・評価方法に大きな技術的課題がある。また、そのポケットの形は極めてあいまいで、ある者は「ジャガイモの表面にある浅いくぼみとくねったパスタの間にそら豆を挟むようなイメージ」と表現し、古典的なポケットで用いられてきたStructure-baseddrugdesignの発想は、このSpliceModulationでは応用が利きにくいことが伺える。Rgentaは世に新たな薬を提供するために、そして効率的な創薬を継続的に実現するために、これらのハードルを乗り越えていく必要がある。 医療分野のイノベーション創出に向け、さまざまなモダリティに対する検討が世界中で進められている。従来の低分子医薬品とは異なり、新規モダリティの開拓には、①サイエンス面での妥当性評価や、②ビジネス面での採算性評価は必須項目であることはいうまでもないが、③実装に向けた連携の仕組みづくりも重要な項目である。特に、先端技術は不確実性も高く、製薬企業がその技術確立に投資することは難しいことから、アカデミアやスタートアップ企業がその創製に重要な役割を果たしている。製薬企業がそれらといかに連携するか、いかに技術導入を進めるかが成功への鍵となる。 Rgentaの技術は、今までUndruggableといわれた標的に新しい展開をもたらす可能性を秘める一方、製薬企業がその技術導入を図る際、自社の既存技術との融合、あるいは、相乗・波及効果を求めたがるであろう。製薬各社は、長年培ってきたタンパク質を標的とする創薬経験および独自の工夫されたインフラを保有しており、それが競争優位を実現してきた。その優位性を担保しながら、いかに先端技術を取り入れていくか、今後、各社のスタンスが問われるであろう。 低分子によるRNA制御は、低分子創薬の可能性を拡げるという期待や注目を集めている一方で、いざ創薬研究となるとinvivoPOC取得や安全性確保の観点で否定的な批判を受けることも少なくない。しかし、そういった否定的な見方が多いなかで新しい不確実なアプローチを導入・採用していくほうが、将来的な創薬の新規性や競争優位性を確保しやすいというパラドックスがある。確かな技術・標的であると合理的な評価を得る分野・領域のほうが製薬業界内の競争圧力が増し、大きなリソースを駆使できる企業が優位となり、日本企業としては「惜しい」結果となる場面も少なくない。一見、不確実性が高い新たな技術をいかに速やかに自社内で利用し、創薬研究としての可能性を早期に検証していくという戦い方が求められている。 RNAが、低分子が選択的に結合可能な“ligandable”な標的であることが判明してきた一方、低分子治療標的として適切かの“Druggable”については、未だ見通しが立っていない。Rgentaは、数々のRNA低分子創薬の失敗を教訓に、的を適切に絞ることでRNA低分子創薬を“ligandable”から“Druggable”のステージに変えようとしている。一方で、RNA低分子創薬の真のブレイクスルー実現には、まだまだ課題がある。例えば、TargetEngagementの証明方法、合理的な化合物デザインを実現するために必要な情報の圧倒的不足、RNAに適した化合物ライブラリーの質と量の圧倒的不足などがあげられる。 筆者(石井)がRgentaと出会って以来、Rgentaはサイエンスの面では自社化合物を順調に進め、またビジネスの面でもLillyAsiaVenturesとVivoCapitalからの投資を受け、またLundbeckとライセンス提携をアナウンスするなど、快挙の1年である。ベンチャーとしては順調に上場に向けてステップアップしていくと同時に、Rgentaは上記のような課題を乗り越え、候補化合物を臨床開発に進められるかに注目が集まる。競合環境では、Rgentaの類似のアプローチで追従するベンチャーも大型資金調達をアナウンスしている。Rgentaを皮切りに、他の技術発展なども融合される形で、これからの2~3年でこの業界がどう進化するか、筆者らとしては目が離せない状況である。
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