MEDCHEM NEWS Vol.32 No.1
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4. 新たな創薬モダリティへのチャレンジ mn412 ta ecnabrosbA3-2. JR-131(ダルベポエチンアルファBS)開発: 返ってきた答えは「いかようにもできます」10図1 キャピラリーゾーン電気泳動による荷電アイソマーの解析high pl121314low plDarbepoetin alfa151617Time(min)JR-13118 ダルベポエチン(DP)はEPOの作用持続型類縁体である。EPOはN型糖鎖付加部位を3ヵ所有する高度に糖鎖修飾されたタンパク質であるが、DPでは、N型糖鎖付加部位を人為的にさらに2ヵ所追加することによって、シアル酸付加数は最大でEPOの14個から22個に増加した。これによって、EPO受容体(EPOR)への結合親和性は低下するが、EPORを介したクリアランスが抑制されることにより、循環血液中での半減期が延長し薬理作用の持続化が達成された。このようにDPは非常に複雑な糖鎖構造を有することから、特に無血清培養下でシアル酸修飾を制御し、先行品と同等のシアロ糖鎖プロフィールを達成することは、非常に困難と考えられた。ところが、この課題について当時の研究所細胞構築グループ長に意見を聞いたところ、意外にも「いかようにもできます」との答えが返ってきた。実際に、CHO生産細胞を標準的な条件で培養すると、発現タンパク質の主にシアル酸付加数の差に起因する荷電アイソマー分布は先行品と大きく異なっていたが、糖代謝に関与する複数の添加物の濃度や組合せを中心に製造工程の最適化を進めることより、先行品の荷電アイソマー分布を正確に再現することに成功した(図1)。健康成人を対象とした本剤と先行品のファーマコキネティクス比較試験では、生物学的同等性が高いレベルで立証された。さらに、腎性貧血患者を対象とした第Ⅲ相試験では、本剤と先行品の有効性の同等性が立証され、安全性においても問題はなく、本剤はDPのバイオ後続品として承認された。 バイオ後続品では、独自に樹立した生産細胞株を用い、培養・精製工程・製剤化工程を独自に開発し、構造、物理的化学的性質、生物学的性質、不純物などについて明らかにする必要があることは言うまでもないが、その品質特性については、先行品の品質特性を明らかにしたうえで、先行品に近似させることが求められる。特に複雑な糖鎖構造を有するタンパク質であればなおのこと、糖鎖修飾の緻密な制御と高収率を可能にするためには、非常に高度な技術力が要求される。筆者らがバイオ後続品の研究開発で得た、バイオ医薬の生産細胞株の樹立、製造工程開発、品質評価、さらには、非臨床・臨床評価で得た経験は、当社のその後のバイオ新薬の研究開発に確実に活かされているのである。 テムセルⓇHS注は、健常成人骨髄液から分離した接着性細胞を拡大培養し製造した間葉系幹細胞(MSC)製品であり、造血幹細胞移植後の急性移植片対宿主病(GVHD)を適応症として2015年9月に承認された国内初の他家幹細胞製品である。テムセルは、生体内へ投与された際、種々の炎症シグナルを受けて活性化され、種々の免疫調節因子の産生や制御性T細胞の誘導等、複数の機序によってドナー由来の活性化T細胞機能を抑制することにより、GVHD治療効果を発揮すると考えられる。ラジオアイソトープで標識したテムセルを免疫不全マウスへ投与し体内動態を解析した結果より、静脈内投与されたテムセルは一過性に肺へ高濃度に分布し、その後、他の組織へ徐々に移行・再分布することによって、標的となる炎症または組織損傷部位へ到達すると考えられた。本品の非臨床安全性試験では、投与後に体内で一定期間生存することが示された免疫不全マウスを用い、投与した細胞による塞栓や血栓形成による局所循環障害の発生、本品が幹細胞製品であることに起因する異所性組織形成のリスク、また、マウスのMSCで報告されているような腫瘍形成やがん化のリスク等に着目したが、本品に関連した毒性所見は認められなかった。本品による腫瘍形成やがん化のリスクについては、ドナーセルバンクごとに染色体検査や軟寒天コロニー形成試験を実施し、細胞が遺伝学的に正常であることも確認した。さらに、微生物感染リスクについては、ドナースクリーニングに加え、ドナーセルバンクの段階で広範なウイルス等の否定試験を実施し、感染リスクを最小限に抑えた。以上のように、合理的に計画した非臨床安全性試験の実施に加え、製品のみでなく原材料やドナーセル(テムセルⓇHS注)

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