くにしま むねたか1989年 京都大学大学院薬学研究科博士課程修了 (薬学博士)1989年〜2008年 神戸学院大学薬学部助手、講師、助教授、教授1994年〜1996年 ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校およびメリーランド大学カレッジパーク校博士研究員2008年 金沢大学医薬保健研究域薬学系教授2014年〜2020年 金沢大学医薬保健研究域薬学系長2017年〜2018年 日本薬学会理事MEDCHEM NEWS 32(1)1-1(2022)1年4回2、5、8、11月の1日発行 32巻1号 2022年2月1日発行 2000年2月3日 第三種郵便物承認 Print ISSN: 2432-8618 Online ISSN: 2432-8626金沢大学 医薬保健研究域薬学系 教授日本薬学会 医薬化学部会 部会長国嶋 崇隆 少年の頃に夢の時代だと信じていた21世紀を迎え、すでに20年が経つ。ICT関連の発展はめざましく、AIで制御された家電やスマートフォンは、まさに当時の夢そのものである。しかし一方で、エネルギーや環境問題など未だ解決できていない課題も多い。世界中で猛威を振るってきた新型コロナウイルス感染症において、その最も効果的な予防が、マスク、手洗い、換気、社会的距離という方法でしかなく、100年前のスペイン風邪からほとんど進歩していなかったことは、何とも意外で残念に感じる。 この未曾有の感染症は、当初から期待されたとおり、医薬品やワクチンによってどうにか終息しそうな状況にある。mRNAワクチンをはじめバイオ医薬品や再生医療など、21世紀の創薬は幸いにも予想もしなかった夢の技術で溢れつつあり、感染症はもちろん難治性疾患の治療にも大きな期待が寄せられている。このモダリティー多様化の時代をリードする次世代の創薬科学研究者には、有機化学、細胞生物学、薬理学などの従来の枠組みを越えた多分野にわたる高度な専門性が求められる。こうした人材を育成するとしたら、化学・物理・生物の基礎科目から臨床科目まで幅広い学問領域をカバーする薬学部が適しているが、次世代創薬人育成のための分野横断的カリキュラムの話はあまり聞いたことがない。 6年制教育制度に移行後の日本の薬学部では、共通したモデル・コアカリキュラム(以下コアカリ)を指針とする薬剤師教育に重点が置かれ、実務実習や第三者評価を通して現役の薬剤師が関わる機会が増えている。今のコアカリには卒業時に学生が修得すべき目標が示されているが、現在改訂が進められている次のコアカリでは、卒後や大学院を含めた生涯教育までを対象とし、薬剤師として生涯にわたって研鑽し続けるために、学部で何を学ぶかが示されることになりそうである。 薬剤師教育のこうした現状と比べて、創薬科学研究者育成の観点から見たとき、製薬企業やその研究者による薬学教育への理解や関与は十分とは思えない。同時に、薬学部の教員にも製薬企業の求める人材や入社後の教育・業務内容を深く理解している者は少ないと感じる。この分野における産学連携教育としては、非常勤の講義、インターンシップ制度、連携講座などがあげられるが、一分野、一個人、一企業レベルの限定的なものが多い。新しい時代をリードする研究者の育成には、求められる多様な高度専門能力とその修得のためのカリキュラムについて、個々の企業や大学の枠を越えて共有し、学部や大学院における新たな教育を実践することが望ましい。 医薬化学部会において10年前から行ってきた創薬人育成事業は、産学の部会員が所属を越えて協力する先進的な企画である。コロナ禍でWeb講義システムの整備が急速に進んできた今こそ、こうした事業をうまく利用し、新しい産学連携教育体制を構築するならば、その先に、想像もつかない夢の新薬が生まれるに違いない。Munetaka KunishimaFaculty of Pharmaceutical Sciences, Institute of Medical, Pharmaceutical, and Health Sciences, Kanazawa University, ProfessorCopyright © 2022 The Pharmaceutical Society of Japan公益社団法人 日本薬学会 医薬化学部会NO.1Vol.32 FEBRUARY 2022次世代創薬科学研究者育成に向けた産学連携教育
元のページ ../index.html#1