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健康豆知識

病院薬剤師の仕事


【はじめに】

 病院の薬剤師とは、いったいどのような仕事をしているのでしょうか。2020年に病院薬剤師の仕事を漫画にした「アンサング・シンデレラ」がTVドラマ化され、今まであまり知られていなかった病院薬剤師の業務にスポットライトが当てられました。それでも、いまだ病院薬剤師の仕事や役割について、患者さんや一般の皆さんに十分に知られているとは言えないと思われます。これは、少し前まで薬剤師は医療の第一線で活躍するよりも病院内の薬局において裏方で活躍する場面が多かったことが要因の1つと考えられます。しかし、昨今ではチーム医療や病院内での業務はもちろんのこと、保険薬局との連携等においても病院薬剤師の益々の活躍が期待され、急速に業務内容が変化しつつある過渡期を迎えています。そこで今回は、近年の病院薬剤師が普段どのような仕事をして、どのような役割を担っているのか、その一部を紹介したいと思います。

【病棟における薬剤師】

 病棟で患者さんに関わるのは医師と看護師、そんなイメージを持たれる方も多いのではないでしょうか。しかし、薬剤師も病棟で多くの患者さんの治療をサポートしています。
 病棟における薬物治療の質を向上させるため、2012年度から保険診療の制度において病棟等の薬物療法全般に責任を持つ専任の薬剤師を各病棟に配置することで算定できる「病棟薬剤業務実施加算」が新設され、国からも病棟での病院薬剤師の活躍が推奨されました。これにより今日では、薬剤師も病棟でしっかりと患者さんの状態を把握し、お薬の効果・副作用の説明や飲み方の指導などについて、患者さんの現在の状況に合わせて説明を行っています。そして、指導により得た情報を適切にカルテへ記録することで、他の医療スタッフと共有できるようにしています。また、病棟では医師や他の医療スタッフとも比較的近い距離で関わることができます。そのため、薬物療法の方針について医師と薬剤師が相談することや、看護師から点滴薬の配合変化等の相談を受ける場面も非常に多くなっています。
 さらに、病棟での薬剤師の業務は患者さんに向けたものだけでなく、医薬品に関わることについて他のスタッフの補助を目的とした業務もあります。こちらは患者さんへのお薬説明の時間以外で行われ、入院患者さんの持参薬等の服薬状況・使用状況の把握や病棟に配置してある医薬品の管理に加えて、医薬品に関する重要な情報の収集・周知等も含まれます。以前は看護師が調製することの多かった抗がん剤も、薬剤師が無菌操作を行い調製する施設が増えてきています。最近では、薬剤師が多職種カンファレンスに参加することも多くなり、治療方針の検討初期から薬剤師が関わることや医療スタッフが医薬品に関した疑問を相談しやすいような環境作りに努めている病院も少なくありません。

【院内の薬局における薬剤師】

 病院薬剤師は、以前と同様に院内の薬局としての業務も担っています。薬局として、患者さんに投与する薬について、適正な使用であるかを確認しつつ薬剤を準備し患者さんのもとに届けることも重要な仕事です。また、院内の医薬品の在庫についても必要な時に必要な分確保できるように計算して管理を行います。近年、高額な医薬品が増えているため、患者さんに不足が無く、在庫を持て余して使用期限が切れるということも無いように適切な在庫管理が強く求められています。さらに、多くの病院の薬局には医薬品情報室(DI室)と呼ばれる部署に薬剤師が配置されています。DI室は現代における膨大な医薬品の情報を適切に管理するための部署となります。この部署では、政府や製薬会社からの様々な医薬品情報を収集・評価し、適切に加工して院内の医療スタッフに提供しています。医薬品に不具合等があった場合でも、その情報を迅速に医療スタッフに周知し、患者さんに被害が及ばないよう努めています。また、院内の医薬品に関する問い合わせに対応し、安全に最適な薬物療法が実施されるよう根拠を持った情報を提供することも業務とします。

【病院薬剤師が関わる医療連携】

 近年では一人の患者さんに様々な医療スタッフが連携して、治療やケアに当たるチーム医療が推進されており、薬剤師も積極的にチーム医療に参画するようになりました。さらに、院内の感染管理を担う部署である感染制御部、医療事故の発生を未然に防ぐことや再発防止等のための管理を担う安全管理部、治験を円滑に行えるよう支援する業務を行う治験事務局などにも薬剤師が配置され、薬剤師が薬学的観点から業務のサポートを行う病院も増えてきました。また、昨今では患者さんの治療において、1つの医療機関でフォローしきることが難しく、病院内の薬局と保険薬局の連携を強めることが推奨されています。特に、外来がん治療への取り組みとしては2020年度から保険診療の制度において「連携充実加算」が新設されました。この連携充実加算は、病院薬剤師と保険薬局の薬剤師が連携をとり、患者さんの抗がん剤治療を評価し、適切に医師と情報共有することで患者さんの治療の質を向上することを目的とした取り組みとなっています。この取り組みにおいて、病院と保険薬局の連携を高めるため、病院側から保険薬局等を対象とした研修会を設けることも必要とされており、現在では薬剤師主体の研修会を開催している病院も多くなっています。

【おわりに】

 以前の病院薬剤師は調剤業務が中心とされていました。当時は、その役割に需要が高かったためと考えられます。しかし、チーム医療が推進されている近年では、チームの一員である薬剤師が薬のプロフェッショナルとして、患者さんに最適な薬物治療を提供できる環境づくりに貢献することが強く求められています。ここで紹介させていただいた業務も病院薬剤師の仕事の一部でしかありません。なぜなら、はじめにありましたように病院薬剤師の業務は過渡期を迎えており、薬剤師の担う業務も病院ごとに少しずつ特色があるからです。今回は、病院薬剤師の主要な業務を紹介させていただきました。最近では、医師の診察前に薬剤師が問診を行う「薬剤師外来」を展開する病院も登場し、病院ごとに薬剤師の活動範囲が広がりつつあります。いずれにしても、病院薬剤師は患者さんの薬物治療に対する不安や疑問を解消し、患者さんが安心して薬物治療を受けられるように、薬の最新情報を常にチェックし、院内の医療スタッフと連携して患者さんにとって最適な薬物治療を提供できるようにしています。また、保険薬局の薬剤師や地域医療を支える医療スタッフとの連携を促進し、患者さんの薬物治療をサポートできるように努めています。そのため、何か薬に関する不安や疑問があれば、気軽に病院薬剤師に薬の相談をしていただければと思います。

2021年2月
帝京大学医学部附属病院 薬剤部 島 忠光