トップページ > 健康豆知識 > 「医薬品副作用被害救済制度」をご存知ですか?

健康豆知識

「医薬品副作用被害救済制度」をご存知ですか?
~お薬を使うすべての方に知ってほしい制度です~


【はじめに】

 私たちはお薬によって多くの病気を治したり、症状を改善して、快適な生活を送ることができるようになりました。しかしその一方で、好ましくない作用(副作用)が現れてしまうことがあります。副作用の予見可能性には限度があり、お薬のもつ特殊性から、その使用に万全の注意を払っても、完全に防止することは困難です。お薬を適正に使用したにもかかわらず、副作用により入院治療が必要になるほどの重篤な健康被害が生じた場合には、医療費や年金などの給付を行う公的な制度があります。「医薬品副作用被害救済制度」(以下、本制度)です。ここでいうお薬とは製造販売の承認・許可を受けた医薬品であり、病院・診療所で処方された医療用医薬品、薬局・ドラッグストアで購入した要指導医薬品、一般用医薬品のいずれもが含まれます。暮らしに欠かせないお薬ですから、いざというときのために、お薬を使うすべての方に知っておいてほしい制度です。

【本制度創設の経緯〈薬害スモン事件〉】

 昭和28年から、薬局などで処方せんなしに買うことができたキノホルム製剤(整腸剤)を服用した人にしびれや異常知覚が現れ、次第に歩行困難、起立不能等に陥り、また視力障害を伴うなど患者に耐え難い苦痛を与える副作用が発現しました。スモン(Subacute Myelo-Optico-Neuropathy;亜急性脊髄視神経症)と呼ばれ、昭和45年にスモンの原因がキノホルムであることが判明し、発売停止になりました。被害者数は、厚生省が把握した患者だけでも約11,000人と言われています。当初は伝染病ではないかとも言われ、患者の中には差別された人もいて、社会的にも非常につらい思いをしたそうです。この悲しい事例のように、お薬を適正に使用したにもかかわらず発現した副作用による被害は、現行の過失責任主義のもとでは民事責任が発生しません。また、被害とお薬使用との因果関係を証明するためには極めて専門的な知識と膨大な時間と費用が必要です。

 薬害スモン事件を受けて「医薬品副作用被害救済制度」が創設されました。本制度は裁判をしなくても迅速に補償を受けられる仕組みとなっており、メーカーの過失も、製品の欠陥も立証する必要はありません。お薬の製造販売業者がその社会的責任に基づいて納付する拠出金を原資としており、本制度に係る事務費の一部は、国からの補助金により賄われています。

【救済給付の対象】

1 お薬を「適正」に使用されたことが前提
 本来の使用目的とは異なる「不適正目的」や使用上の注意事項に反する「不適正使用」の場合は対象外

2 民事責任の追及が困難であることが前提
 お薬の製造業者、販売業者等、損害賠償の責任を有する者の存在が明らかな場合は、対象外

3 「重い」副作用が対象
 副作用の中でも「入院相当の治療が必要な被害」、「1・2級程度の障害」、「死亡」の場合を対象としており、軽微な副作用は対象外

4 受け入れることが適当でない副作用が対象
 重い副作用があっても使用が必要な抗がん剤や免疫抑制剤等のお薬(除外医薬品と呼ばれます)による副作用、救命のためやむを得ず通常の使用量を超えてお薬を使用したことによる副作用など、本来の治療のためには避けられない副作用は対象外

5 「副作用」に着目
 お薬の薬理作用によって生じる「副作用」が対象であり、細菌やウイルス等が混入したことによる「感染」や異物による汚染は対象外
※このほか、いくつかの規定があります。詳しくはお近くの薬剤師等にお尋ねください

【申請から給付までの流れ】

 給付の請求は、健康被害を受けたご本人またはそのご遺族が直接、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構に対して行います。その際に、医師の診断書や投薬・使用証明書、受診証明書などが必要となります。支給の可否は、厚生労働省が設置し外部有識者で構成される薬事・食品衛生審議会における審議を経て、厚生労働大臣の判定結果をもとに決定されます。

【どんな救済があるの?】

・医療費(健康保険等による給付の額を除いた自己負担分)
・医療手当(月額34,300~36,300円);副作用又は感染等による健康被害の治療に伴う医療費以外の費用の負担に着目して給付するもの
・障害年金(1級:年額2,752,800円、2級:年額2,203,200円);副作用により一定程度の障害の状態にある18歳以上の人の生活補償等を目的として給付
・障害児養育年金(1級:年額860,400円、2級:年額688,800円)
・遺族年金(2,408,400円);生計維持者が副作用により死亡した場合に、その遺族の生活の立て直し等を目的として給付
・遺族一時金(7,225,200円);生計維持者以外の人が副作用により死亡した場合に、遺族に対する見舞等を目的として給付
・葬祭料(206,000円);葬祭を行うことに伴う出費に着目して給付

【最後に】

 平成28年度一般国民における本制度の認知率は「知っている」8.6%、「名前は聞いたことがある」20.9%、合計29.4%であり、お薬の副作用による健康被害を受けながらも本制度の存在を知らないために請求に至らない方がいると推測されます。もしあなたや、あなたの大切な家族や知り合いがお薬の副作用で健康被害を受けた場合は薬剤師などに相談し、速やかに本制度の申請を行うことをお勧めいたします。


2018年10月
慶應義塾大学病院 我妻 秀和