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健康豆知識

薬の飲み残しはありませんか?


【はじめに】

 “飲みぐすり”には色々な飲み方があります。例えば、朝・昼・夕に3回服用する薬もあれば、朝に1回だけ服用する薬もあります。また、1回に飲む数量も1錠の薬や2錠の薬があります。さらに、継続して定期的に服用する薬や、症状が出て必要な時だけに服用する薬などがあります。特に、複数の種類の薬を服用している方は、それぞれを忘れずに毎日正しく服用することが難しい場合があるかもしれません。では、薬はなぜ色々な使い方があるのでしょうか。

【飲みぐすりの効き方】

 錠剤やカプセル剤などは、通常、口から入って胃で溶け、小腸から血液中に吸収されます。その後に心臓の働きで血流にのって全身に運ばれます。血液中の薬の濃度がちょうどいい状態のときに、薬は安全に効果を発揮することができます。例えば、1日1回服用する薬は、右下図の実線の様に、1日3回服用する薬は点線の様に、血中の濃度を一定の範囲に保っています。もし、1日3回服用する薬を1回や2回しか服用できなかった場合には、血液中の薬の濃度は低くなってしまいます。薬の濃度が低いと、目的とした作用が発揮できずに効果が不十分になります。一方、濃度が高すぎると、目的の作用以外の副作用が出てしまうかもしれません。つまり、定期的に服用する薬は、決まっているタイミング(用法)に、決まった数(用量)を飲むことが大切です。

【飲み残した薬について】

 しかしながら、様々な服用方法の薬を処方されていると、飲み忘れや飲み間違いが多くなってしまうことがあります。特に、高血圧や脂質異常症、骨粗しょう症などの薬や、喘息やてんかん発作を予防する薬、認知症の進行を穏やかにする薬などは、日常生活において自覚症状が少ないので、忘れてしまうことが多くなりがちです。薬を飲み忘れてしまい、残っている薬がある場合、医師や薬剤師に伝えにくいと感じる方もいるかもしれません。
しかし、薬の服用状況を医療従事者に伝えることは、以下の3つの点で大切です。
1)一つ目は、今使っている薬の効果を、正しく評価するためです。例えば、毎日服用する薬を時々しか服用できていなかった場合、医師や薬剤師が1か月後に症状を確認した際に、期待される効果が得られていないかも知れません。もし、その服用状況を医師や薬剤師に伝えなければ、本来治療に適した量の薬であるにも関わらず、その量では効果が不十分と判断されてしまいます。そして、薬の量を増やすことや、別の薬の追加や変更を検討するかもしれません。必要以上に薬の量や種類が増えることで、副作用の出現や、さらに飲み忘れが多くなってしまう可能性が高くなります。
2)二つ目は、使われずに残ってしまう薬=「残薬」を減らすためです。多くの場合、病院や診療所で処方された医療用の薬は、保険薬局で受け取ります。医療用の薬の費用は、保険や税金で負担されている部分が多く、薬局の窓口で支払う自己負担の金額は、年齢や所得などに応じてその0~3割程度となっています。現在、日本の国家予算は約96兆円となっています。近年、医療費は年々約1兆円ずつ増大し、2015年度は42兆円を超えています。その中で、薬剤の費用は約5.5兆円で13%程度を占めています。今後、高齢化の進展に伴って医療費が膨らみ続けると、現行の医療保険制度を維持することが困難になると予想されています。一方で、飲み残しの薬代は、在宅医療を行っている75歳以上の方だけでも、約500億円あると言われており、大きな問題となっています。限りある財源の中で、多くの国民がより良い治療を受けられるためにも、「無駄」を減らしていくことは大切なことです。症状が変化して、薬剤が変更になった際に、それまで飲み残して余っている薬は無駄になってしまいます。継続している薬を処方してもらう時に、家に残っている薬の種類と量を正しく伝えていただくと、処方日数を調整して、薬の数を合わせることができます。残薬を減らすと共に、薬剤費の自己負担が抑えられ、国の医療費の抑制にも貢献することができます。
3)三つ目は、薬を正しく服用するための対策や支援を考えるためです。例えば、1日3回朝・昼・夕に服用する血圧の薬を、昼や夕方の飲み忘れが多い場合、朝に1回の薬に変更できれば、正しく服用出来るかもしれません。また、毎朝服用する骨粗しょう症の薬を、週に1回や月に1回など服用回数が少ない薬に変更できることもあります。また、用法用量が異なる複数の薬を服用している場合、服用のタイミングに合わせて薬を1つの袋にまとめておく=「一包化」をすることで、飲み間違いを減らすことができます。さらに、一包化した薬をカレンダーの様にすることで、飲み忘れの防止や、重複して服用してしまうことを防ぐことができます。外出が多い方は、ピルケースなどを利用することも効果的です。この様に、服薬状況や飲み残してしまう原因を薬剤師等に伝えていただくことで、環境に応じた支援を提案することができます。

【睡眠薬などの不眠時の薬】

 これまでの定期的に服用する薬とは対照的に、症状が出たときや激しいときなどに、必要に応じて服用する=「頓服」薬があります。例えば、不眠や痛み、吐き気、便秘などの薬があります。頓服薬は、あくまで症状を一時的に抑える対症療法です。根本的な治療ではありませんので、症状がない時に漫然と服用せずに、用量や使用間隔などを守って使うことが大切です。
 睡眠薬を服用している人の中には、「薬を飲んでいれば睡眠が改善されて、いずれ自然に眠れるようになる」と考えている人がいます。一方で、「薬がなくては眠れない」と思い込んでいる人もいます。しかし、頓服で処方されている睡眠薬はあくまで対症療法です。起床時に太陽の光を浴びる、コーヒーや日本茶などのカフェイン含有飲料は夕方以降控える、日中適度な運動をする、ストレスを解消する、就寝の数時間前にテレビやパソコン、スマートフォンの画面を見ないなど、生活習慣の見直しをすることで、薬を必要とする頻度を軽減できるかもしれません。受診の際に、使わずに残った薬がある場合は、医師や薬剤師に伝え、必要以上の薬を処方してもらわないようにしましょう。
 ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、通常の用量でも長期間に渡って常用していると、身体的な依存症になり、急激に服用を中止した場合、不安や頭痛、吐き気やけいれんなどの離脱症状が出てしまう可能性があります。現在、長期間常用している場合は、自己判断で服薬を中止したり、用量を減らしたりせずに、薬剤師や医師にご相談ください。



2017年10月
横浜薬科大学 田口 真穂