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健康豆知識

ノロウイルスの流行!~嘔吐物への対応及び注意点~


【はじめに】

 ノロウイルスの感染は、下痢だけでなく、激しい嘔吐を引き起こします。また、感染した人の世話や看病した人が嘔吐物等を介して二次感染するケースも多く、適切に処理して消毒を行わないと感染を広めてしまう危険性があります。感染を拡大させる原因のほとんどは、感染している人が調理に従事したことや、嘔吐物等の不適切な処理によるものだと考えられています。嘔吐物の処理に関して、正しく怖がり、正しく対策をすることが重要です。そのためには正しい知識を身につけ、また正しい対応には準備が必要です。
 ノロウイルスへの感染を抑える上で注意すべき点が三つあります。一つ目はノロウイルスに感染していても症状の見られない不顕性感染の患者がいる点です。二つ目はノロウイルスに罹患し、主訴の症状が無くなった後も、便から1~3週間以上、ウイルスの排泄が続くことがある点で、便の液滴が便器の周囲に飛散し、人の手等を介して体内に入り感染、発症するというものです。罹患した患者に、このような知識を持ってもらうのも非常に重要なことです。三つ目はこの感染症に対して特効薬が現在はないという点です。今は、手洗い、うがいによる予防に努め、また、嘔吐した場合に正しい処理を行わなければなりません。

【ノロウイルス】

 ノロウイルスは、通常のウイルスと違って、乾燥した状態でも、なかなか感染力を失いません。また、酸に強いので、体内の胃酸を容易に通過します。熱で不活化するには85~90℃の温度で90秒の加熱が必要です。さらに、一般的な消毒用アルコールや逆性石鹸では、効果があまり期待できません。アルコール消毒の仕組みについてですが、アルコールには①ウイルスの外膜の脂質を溶かす作用、②タンパク質を変性させて機能を失わせる作用、③脱水作用の三つがあります。インフルエンザウイルス等はエンベロープという外膜を持っていて、その大部分が脂質でできています。脂質を溶かすことができるアルコールや石鹸等はインフルエンザの感染力を失わせることはできますが、ノロウイルスはこのエンベロープという外膜を持たないので、アルコールでは不活化することが難しいのです。

【消毒剤】

 ノロウイルスには、次亜塩素酸ナトリウム水溶液が有効だとわかっています。次亜塩素ナトリウムは、市販されている塩素系漂白剤に含まれているため、容易に入手できます。
 塩素系漂白剤は、嘔吐物を処理する場合に安価で容易に使用できるという理由から多く使用されています。実際に、ハイター、キッチンハイター、ブリーチ等の次亜塩素酸ナトリウムを約5%含む塩素系漂白剤を用いる場合、清掃や調理台、調理器具等は250倍に希釈、嘔吐物や排泄物等で汚染された場所に使用する場合は50倍希釈した溶液を用います(※類似商品名のワイドハイターは酸素系漂白剤なので使用できません)。希釈しないと塩素系漂白剤の原液は強いアルカリ性で、嘔吐物は強い酸性ですので、混ざることで塩素ガスが発生するので大変危険です。嘔吐物や排泄物の処理で、急を要する場合は計量器が手元にあるとは限りませんので、塩素系漂白剤のキャップ(蓋)を代用することが出来ます。清掃や調理台、調理器具等の消毒には、2リットルのペットボトルに、このキャップ3分の1杯の原液を入れ、肩まで水を入れた物を使用します。嘔吐物や排泄物等の消毒には、2リットルのペットボトルに、このキャップ2杯の原液を入れ、肩まで水を入れると出来ます。また、希釈して作成した消毒剤は、作り置きすることは出来ません。必要時に作りましょう。家庭において、塩素系漂白剤は小さい子供さんの手の届かないところに保管してください。

【処理方法】

 嘔吐物の処理を行う前に、嘔吐物処理に対し正しい考え方を持っていただくことが必要です。一般的に嘔吐物は『汚い』という認識ですが、まず『危険な物』として取り扱うことが重要です。例えば、事前に気分が悪い人のために、嘔吐用にバケツにレジ袋を重ねたものを用意するなど、処理に必要な物を準備しておくのも良いでしょう。
 嘔吐物の処理をする順序として、① 換気をする。これは、飛び散ったウイルスは浮遊することもあるので、浮遊したものを口や鼻から吸引して、発症することが稀にありますので、換気が重要ということです。② 嘔吐物は一刻も早く新聞紙等で覆う。③ 新聞紙の上から塩素系漂白剤を希釈した消毒剤をかける。これは直接、消毒剤を嘔吐物にかけないことで、更なる飛び散りを防ぐ効果があります。
 処理をする人は、感染の可能性が高いので注意が必要です。処理の際、膝をついたり、着衣が床に接したりしないようにしてください。また、顔など皮膚が露出している場所には、手で触れないようにしてください。さらに、感染を広げないために、処理は一人で行いましょう。

【おわりに】

 いざという時にパニックにならないように、あらかじめ嘔吐物の処理に関する知識を家庭内で話し合うことで、感染を拡大させることなく最小限に抑えることができるようになります。今回ご紹介した嘔吐物の処理方法は一般的な処理方法です。基本的にはすべての嘔吐物にノロウイルスが存在すると仮定して対応していただく方が安全です。
 家庭での感染源の多くはトイレだといわれています。水様便の液滴は予想以上に飛び散るので、便座や便器、その周囲はこまめに250倍希釈の塩素系漂白剤で拭き取ってください。
 ノロウイルスに限らず、感染症への最も有効な対策は『手洗い・うがい』です。石鹸等ではノロウイルスは死滅しませんが、手からノロウイルスが剥がれやすくなります。また、うがいの励行はウイルス等の感染症予防になるので、手洗いとセットにし、習慣づけることが重要です。備えあれば憂いなしです。


2016年10月
伊都薬剤師会 西前多香哉