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健康豆知識

果物ジュースと薬の飲み合わせ


【はじめに】

 内服薬は水と一緒に飲むことが推奨されており、また実際に多くの方は水と一緒に飲まれていることと思います。ただ、手元にお茶がある場合など、ついお茶で飲んでしまう場合もあるかもしれません。でも、もし手元に果物ジュースがあった場合はご注意ください。果物ジュース中の成分が小腸に働きかけて、小腸からの薬の吸収量を変えてしまう結果、その薬の効き目を強めたり弱めたりすることがあります。特にグレープフルーツの場合に、幅広い薬の効き目に影響することが知られています。

【内服薬が体内に吸収されるしくみ】

 錠剤やカプセル剤などは、腸溶錠や口腔内崩壊錠などの場合を除き、胃の中で崩壊し、その後有効成分が消化液に溶け出します。溶け出した薬は、食事中の栄養素と同じように、小腸から吸収されます。ただし、小腸の細胞は体内に吸収するものを選択する門番の役割を果たしているため、何でも自由に通すわけではありません。小腸の細胞には門番の役割を果たすためのタンパク質が数多く機能していますが、それらのうち、運び屋タンパク質(トランスポーターと呼ばれます)と異物を分解するたんぱく質(代謝酵素と呼ばれます)の機能は果物ジュース中の成分で抑えられることがあります。
 小腸から吸収されるには細胞表面の細胞膜を通り抜ける必要があります。細胞膜にしみ込むことで通り抜けられる物質もありますが、体に必要な栄養素の多くは細胞膜に埋め込まれたトランスポーターに認識されることで細胞の内部に運ばれ、吸収されます。薬の一部についても、トランスポーターに認識されることで吸収されています。さらに、小腸の細胞内部に入ることができた薬も、代謝酵素に認識されることで分解される場合があります。そのため、服用した薬は必ずしも全て吸収されるわけではなく、また、その割合は薬ごとに異なります。果物ジュースがトランスポーターや代謝酵素の機能を抑えると、薬の吸収量がいつもと異なることになってしまい、薬の効き目に影響する可能性があります。

【代謝酵素CYP3A4の抑制による作用の増強】

 小腸の細胞内部で機能する代謝酵素CYP3A4は、グレープフルーツ由来の成分で機能が抑えられます。したがって、代謝酵素CYP3A4で分解される薬の場合、グレープフルーツ由来の成分によって分解量が減少することで吸収量が増加し、その結果、薬の効き目が強まり、副作用のリスクが高まります。代謝酵素CYP3A4で分解される薬には、血圧を低下させるカルシウム拮抗薬であるニフェジピン(商品名:アダラート等)やフェロジピン(商品名:スプレンジール、ムノバール等)、免疫抑制薬であるシクロスポリン(商品名:サンディミュン、ネオーラル等)やタクロリムス(商品名:プログラフ、グラセプター等)、コレステロールを低下させるHMG-CoA還元酵素阻害薬であるアトルバスタチン(商品名:リピトール等)やシンバスタチン(商品名:リポバス等)などが知られています。これらの薬のうち一部は、グレープフルーツジュースとの飲み合わせによる重篤な副作用の事例が報告されています。
 グレープフルーツ由来の成分は、小腸のCYP3A4に数日間影響を与え続けます。そのため、対象となる薬を飲む方は、グレープフルーツジュースで薬を飲むのを避けるだけでは不十分です。日常生活の中で、グレープフルーツジュースだけでなく、グレープフルーツ果実、グレープフルーツサワー、グレープフルーツを含むマーマレードなど加工食品を摂るのは避けましょう。ミックスジュースを飲む時にも、グレープフルーツが含まれているかどうか、原材料表示ラベルで確認する必要があります。グレープフルーツの仲間であるハッサクやブンタンなどにも同様に避ける必要があります。レモンやオレンジ、みかんは問題ありません。
 小腸におけるCYP3A4のはたらきは人によって程度が異なります。グレープフルーツジュース中の成分も、種類、生育条件や、製造工程によって異なります。そのため、グレープフルーツによる影響は強く出ることもあれば出ない場合もあります。このあいだ大丈夫だったから今度も大丈夫だろう、私は大丈夫だったからあなたも大丈夫、といった考え方は避けるべきです。

【トランスポーターOATPの抑制による作用の減弱】

 小腸の細胞膜で機能するトランスポーターOATPは、果物ジュース由来の成分で機能が抑えられます。したがって、トランスポーターOATPを通じて吸収される薬の場合、果物由来の成分によって吸収量が低下し、薬の効き目が弱まります。なお、ここでの果物ジュースとはグレープフルーツジュースだけでなく、リンゴジュースやオレンジジュースも含みます。代謝酵素CYP3A4とは逆の影響ですので、果物ジュースが重篤な副作用を誘発することはありませんが、薬の効き目が弱まるのはやはり問題です。
 トランスポーターOATPを通じて吸収される薬として、花粉症などによるアレルギー性鼻炎や湿疹、かゆみなどに効果を発揮するフェキソフェナジン(商品名:アレグラ等)が挙げられます。フェキソフェナジンの吸収量はグレープフルーツジュースで飲むことにより半分程度にまで減少することが報告されています。さらに、心拍数を抑えて血圧を低下させるセリプロロール(商品名:セレクトール等)やアテノロール(商品名:テノーミン等)についても同様の影響が認められています。ただし、果物由来の成分がOATPに与える影響は数時間程度です。そのため、対象となる薬を飲む方は、薬を飲むときやその前後に果物ジュースを摂らないように注意することで、薬の吸収への影響をほぼ避けられるとされています。

【おわりに】

 同じ種類で同様の効き目を持つ薬の中でも、果物ジュースによって影響される薬とされない薬があります。ビタミンCなど栄養素を豊富に含む果物を摂ることは、本来とても大切なことです。そのため、果物の摂取を過剰に恐れることは問題です。さらに、牛乳で吸収が抑えられる薬や、飲み物だけでなく食事内容が効き目に影響する薬があるなど、薬と飲食物との飲み合わせや食べ合わせの問題は多岐にわたります。自分が飲んでいる薬が飲食物によってどのような影響をうけるのかお知りになりたい方は、薬局やドラッグストアで薬剤師にご相談ください。


2014年10月
  慶應義塾大学薬学部 登美斉俊