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過去のハイライト

(斉=斉藤正治・副校長、西=西島正弘・会頭)

西:貴校からは毎年何名ぐらい薬学部に進学しますか?

斉:本校の定員は1学年200名ですが、そのうち10~15名ほどが薬学部に進学しています。昔は薬剤師を目指して私学の薬学部に進学する生徒も多くいましたが、6年制が始まり、学費の負担が増えたことから敬遠した学生もいると思います。

西:そもそも4年制は製薬企業に就職する学生のため、6年制は薬剤師の資格を取って病院や調剤薬局などに薬剤師として就職する学生のためのものと言われていましたが、来年3月に卒業が見込まれている第一期6年制薬学部学生の就職内定状況を見ますと、必ずしもそうではないようです。結構多くの学生が企業の内定を頂いています。

斉:それはどうしてなのですか?薬剤師になるための勉強を6年制ではしているのですよね。

西:6年制が特に目指すものは、単に処方箋に基づいた調剤をするだけでなく、がんなど難しい病気の治療を計画的に実施するためのチームの一員として、専門的知識が必要な医薬品の投与計画策定や、副作用管理に携わる臨床薬剤師の育成です。つまり、6年制教育のカリキュラムの中では自然科学がベースとなりますが、生命倫理や臨床現場でのコミュニケーションなど社会科学的な学習も行います。5年生で行う半年間の実務実習では実際に臨床の現場に赴き、病気と格闘する患者さんとも接します。この経験が実社会において、特に患者さんを第一に考える製薬企業には求められているのだと思います。また、6年制卒は修士ではないのですが、ほとんどの企業が修士と同じ初任給を6年制卒の学生にも適用しました。

斉:医療現場を経験できるのは大きいですね。医薬分業が進む中で、なぜ病院に薬剤師が必要なのか疑問に思っていたのですがよくわかりました。進路指導の参考にさせていただきます。

西:薬学会が高校生を対象として作成したパンフレットをご覧になられたことはありますか?

斉:私ももともと化学の教師ですので、日本化学会がいろいろ高校生を対象とした活動を行っていることは知っていましたが、薬学会もそのような活動をされているとは存知あげておりませんでした。

西:(高校生向け小冊子を手渡し)これなのですがいかがでしょうか?

斉:すみません。初めて拝見させていただいたかと思います。内容はとても面白いし、理科系を志望する学生は興味を持つのではないでしょうか。ただ、もう少し、内容のレベルを落とされた方がよろしいかと思います。3年生になりますと志望する学部に合わせた科目を選択する授業カリキュラムとなります。これは、ほとんどの高校で共通していると思います。その選択科目を決める時期ですが本校の場合では2年生の11月です。この冊子に書かれている内容は3年生になって遺伝の仕組みや有機化学を学んでからでないと理解できないと思います。

西:なるほど。ターゲットとなる読者層は、高校1~2年でないとだめですね。また、これまで薬学会では高校生が一線の研究者の中に混じって研究発表を行う場を提供してきました。貴校からも是非応募していただけたらと思います。

斉:それは生徒にとっていい励みになります。

斉:本校は、SSHに3期連続で認定され、今年で10年目となります。SSH認定校は、お互い情報交換を蜜に行っていますので、全体で見れば、全国の理科好きの高校生によるネットワークが構築されています。

西:最近、「理科離れ」という言葉を聞きませんが、SSHのような、学生がわくわくする実験教室があると、「理科離れ」という言葉は無くなってしまうのかもしれません。

斉:最近の生徒は、「理科離れ」以前に、普通の生活の中で与えられたことしかできない、自ら考えないという傾向が強いと思います。理科の実験はその最たるもので、マニュアルどおりの操作をして、教科書に書いてあるとおりのことを言って、そのとおりにならないとすぐに教師に聞く。聞く生徒は、それをほっておく生徒よりはまだいいのかもしれませんが、理科は理論の教科ですから、なぜ、そういう結果が得られたのかとことん考えてもらいたいのです。

西:大学の研究室でも同じような話を聞きますね。自分でなにも考えずに、すぐに誰かに頼る学生が多いと。「ゆとり教育」が作り出した典型的な学生像ですが、SSHでそのような学生をしっかり鍛えなおしていただけると助かります。自らがしっかりと物事を考え、自分の意見を言えるという姿勢は社会でとても大切なことだと思います。特に医療の世界ではマニュアルどおりに行かないことが多くあります。がんや自己免疫性疾患のような医療の満足度が低い領域では、様々な革新的治療法が日々考案され飛躍的な進歩を遂げています。これからの未来は、こういった創意工夫によるイノベーションが益々求められるはずです。

斉:生命科学は、国家戦略の中で最重要視されている領域ですので、SSHでも積極的に取り組んでいこうと思っています。薬学会のご協力を是非ともよろしくお願いします。

西:はい。できる限り協力をさせていただきます。薬学は自然科学と社会科学の両方を兼ね備えていると申しましたが、それは「生命」そのものの根源なのだと思います。SSHのプログラムを通して、薬学の魅力を広め、そして、その漢字が伝える<人々を楽にするもの>、つまり生活の質の改善に使命感を抱かせたいと思います。