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今月の薬草
エンゴサク
Corydalis turtschaninovii Besser forma yanhusuo Y. H. Chou et C. C. Hsu ( ケシ科 )
エンゴサク Corydalis turtschaninovii Besser forma yanhusuo Y. H. Chou et C. C. Hsu (ケシ科)エンゴサク 花 エンゴサク Corydalis turtschaninovii Besser forma yanhusuo Y. H. Chou et C. C. Hsu (ケシ科)ジロボウエンゴサク 花
エンゴサク 花 ジロボウエンゴサク 花

エンゴサク Corydalis turtschaninovii Besser forma yanhusuo Y. H. Chou et C. C. Hsu (ケシ科)エゾエンゴサク 花
エゾエンゴサク 花
 中国の東部から朝鮮半島に分布し,やや乾燥し,肥沃で明るい林床などに生育している多年生草本植物です。渡来は江戸時代の享保年間(1717-35)といわれ,薬用植物園の標本園などに植栽されています。地下茎は肥大して塊茎となり,茎は細くて折れやすく,草丈は10〜20cm,葉は二回三出複葉です。花は紅紫色でスミレなどにも見られる距(きょ)を生じ,総状について早春から春に咲きます。果実は線形の刮ハとなっています。
 植物の和名は,生薬名から名づけられました。薬用には塊茎を用い,生薬名をエンゴサク(延胡索)といいます。各種症状の鎮痛の改善を目標とした安中散や折衝飲などの漢方処方に配剤されています。民間薬として単独で用いることはありませんが,漢方処方を基本としたOTC薬の健胃薬などに配剤されています。かつて日本に自生する近縁のジロボウエンゴサクやエゾエンゴサクなども利用していましたが,現在では市場性がないということから局方より除外されました。これら薬草は作用が激しいため,一般の人たちにとっては毒草として取り扱われます。
 本植物は,早春から春に花が咲いて初夏には地上部が枯れ長い休眠に入る,いわゆるスプリング・エフェメラル・春植物(Spring ephemeral)といわれる植物の一種です。このような性質の植物は,冬に葉を落とし,春の到来とともに芽生える温帯に見られる夏緑広葉樹林の生態系に適応した植物といわれています。一般的に夏緑広葉樹は草本植物より芽生えが遅く,夏に葉が生い茂ると直接日差しが差し込むことが少ない樹林ですが,早春は葉を落としているために林床は明るい環境となっています。この直接日差しが差し込む短い期間に芽生えて光合成を行って開花・結実し,更に地下部に栄養を蓄えます。夏以降は樹木の葉が生い茂り,樹林内は薄暗く生育に適さない環境となってしまうため休眠に入ります。この様な生育を示す植物は,延胡索やジロボウエンゴサク,エゾエンゴサクの他には,キンポウゲ科のフクジュソウやイチリンソウ,ユリ科のカタクリやショウジョウバカマカなどが知られています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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