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今月の薬草
ヌルデ
Rhus javanica Linne ( ウルシ科 )
ヌルデ Rhus javanica Linne (ウルシ科)果実 ヌルデ Rhus javanica Linne (ウルシ科)リンゴ酸カルシウム結晶
果実 リンゴ酸カルシウム結晶

ヌルデ Rhus javanica Linne (ウルシ科)虫こぶ
虫こぶ
 各地の山野に生育する夏緑広葉樹です。雌雄異株。樹高は5mくらい,葉は互生し,葉身は奇数羽状複葉で小葉は楕円状で先端は尖り,葉軸は翼を生じます。花は白色で小さく,枝先に円錐状に多数つけ,夏に咲きます。果実は径3mmくらいの扁平な球状となり,秋に黄赤褐色に熟します。しばしば果実の表面には,白色のリンゴ酸カルシウムの結晶が析出することがあり,舐めると塩辛い味がします。また葉に不定形の大きな虫こぶを生じることがあります。これはヌルデシロアブラムシ(Schlechtendalia chinensis)などが葉に産卵し,孵化した幼虫が植物の樹液を吸うことにより生じたものです。
 和名は,植物体を傷つけると生じる乳液を塗料として塗り物に用いたことから名づけられました。また秋に美しく紅葉することから別名をヌルデモミジともいい,最も早く紅葉する植物の一つとして知られています。薬用には葉に生じた虫こぶを用います。生薬名をゴバイシ(五倍子)といい,収斂や止瀉,止血薬とします。その他,インクの製造や黒色染料,皮のなめしなどに用いるタンニン酸の原料とします。採取時期は,虫こぶ内の幼虫が羽化する前がよいとされ,採集後は直ちに熱湯処理し乾燥させます。羽化した成虫が殻から飛び出してしまった後の虫こぶは,品質が低下し生薬や染料の原料としては適していないといわれています。なお本植物はウルシ(R. verniciflua)と同じ仲間になり,稀にかぶれることがあります。かぶれ易い方は特に要注意です。
 近年,草木染が静かなブームとなっています。均質に染まる化学染料と比較すると,草木染は素材となる植物や媒染材,布の種類によって異なる風合いに染まります。同じ色合いに染まることは二つと無いといえるのですが、このような点が逆に趣きのある風合が出るという長所にもなり見直されてきなのだろうと思われます。ゴバイシ(五倍子)も昔から染色の素材として利用されてきました。ゴバイシを直接または明礬などを媒染材として染色すると淡褐色に染まりますが,鉄を媒染材としたときには黒色系に染まります。このような面白い現象は主要成分のタンニンと反応した結果ですが、草木染の色合いは当に化学反応の産物でもあります。(磯田 進・鳥居塚和生) 

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