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今月の薬草
シクンシ
Quisqualis indica L. ( シクンシ科 )
シクンシ Quisqualis indica L. (シクンシ科)花 シクンシ Quisqualis indica L. (シクンシ科)果実
果実

シクンシ Quisqualis indica L. (シクンシ科)果実
果実
 中国南部や東南アジアなどに分布し,薬用や観賞用に栽培されている常緑のつる性木本植物です。生育初期には低木状ですが,その後,他物に絡みつきながら10mくらい伸長します。日本ではあまり馴染みのない植物ですが,植物園などの温室に植栽して熱帯の雰囲気を演出しています。また南西諸島の石垣島や西表島では露地で観賞用に栽培されていますが,その一部は逸脱して野生化しているということです。葉は有毛で短い柄を生じ,一般的には対生していますが時には互生することもあります。葉身は薄く,長楕円形で先端は尖っています。葉柄には節があり,落葉する際にその基部が分離して,刺状の突起となって残ります。花は穂状に多数生じて甘い芳香があり,特に日中より夕方に香りが強くなります。そしてほぼ年間を通して咲き続けますが,日本では初夏から夏に咲きます。花色は初め白色ですが,後に淡紅色から濃紅色に変化します。果実は紡錘形で縦に五つの稜があり,暗褐色の木質状に熟します。そして内部に1個の種子を生じます。しかし日本の温室ではきれいな花が沢山咲く割に,ほとんど果実をつけることはありません。
 薬用には果実を用い,生薬名はシクンシ(使君子)といいます。この生薬名に由来して植物の和名もシクンシといいます。生薬は回虫や蟯虫などの駆虫薬,整腸薬,健胃薬とします。衛生環境が悪い時代には寄生虫の駆除は特に重要でした。そのため,駆虫作用をもつ薬は,「天子から授かったほどの貴重な薬」と捉えて名づけられたといわれています。しかし衛生環境の整った現在の日本では,幸いにも薬効の一つである駆虫薬としての役割は過去のものとなってしまいました。
 過日,千葉大学薬学部の薬用植物園が整備のために一部閉鎖を余儀なくされるとのことで,必要な植物を分譲するという話があり,早速いくつかの大学の薬学部や国立研究所の先生方とご一緒に植物をいただきに伺いました。久しぶりの訪問でしたが,その歴史を物語っているように,周囲の薬木や貴重な薬草が茂り,整備された園内は昔と何一つも変わっていませんでした。温室を覗くと一株のシクンシに目が留まりました。日本では例え温室であっても,果実が実ることは非常に稀なことです。今まで一度も目にしたことはありませんでした。ところが,この温室で育てられたシクンシには,なんと多くの果実がついていたことでしょう。その初めて見る光景に驚きを禁じえませんでした。シクンシが歴史ある薬用植物園の一部閉鎖という現実を悲しみ,そしてその存在感をアピールするために最後の力を振り絞って果実をつけたのではないかと,感傷的な思いがふと私にこみ上げてきました。(磯田 進・鳥居塚 和生) 

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