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今月の薬草
オニノヤガラ
Gastrodia elata Blume ( ラン科 )
オニノヤガラ Gastrodia elata Blume (ラン科)花 オニノヤガラ Gastrodia elata Blume (ラン科)花

オニノヤガラ Gastrodia elata Blume (ラン科)全形
全形
 日本各地から朝鮮半島,中国大陸,ネパール,インドなど広い地域に分布し,おもに林床などに生育している多年生草本植物です。一般的には塊茎は開花した年に消滅しますが,表面に小さな芽を生じ,その芽が数年間地中で生育し肥大した後に,再び花茎を伸ばして花をつけます。そのため生育する個体数は,年によって増減があります。葉緑素がなく,葉は鱗片状でまばらにつき,栄養物はナラタケ菌と共生して得ています。地上茎は黄褐色で直立し,草丈は60〜100cmです。花は黄褐色で筒状に膨らみ,茎の上部に総状に多数つけて初夏から夏に咲きます。種子は微細で多数生じます。
 和名は直立する茎を,鬼が用いた弓の矢に例えて名づけられました。確かに花がまだつぼみの状態の茎は,大地に刺さった弓の矢を連想します。因みに学名(属名)のGastrodiaはギリシャ語の gastr(=胃)に由来し,花の形が膨らんだ胃や腹によく似ていることから命名されたものです。薬用には塊茎を用い,通常は蒸して乾燥させてあります。生薬名をテンマ(天麻)といい,強壮薬の他,めまいや手足の麻痺などの改善を目的とした半夏白朮天麻湯などに配剤されています。
 以前,職場の近くでオニノヤガラを観察した時のことです。つい数日前までは何株かの生育を確認していたのでしたが,その間に無残にも掘り起こされ,薬用部位である塊茎が食い散らかされていました。唯一塊茎が確認できたのは一株だけという惨状でした。その光景を目にした私は,イノシシも薬用効果を期待?して掘り起こしたのかなとの思いが脳裏をかすめましたが,と同時にどのような食味があるのかと興味を抱きました。車で少し行った別の場所にはまだ数多く生育しているところがありましたので,そこで一株掘り取り食べてみることにしました。よく水洗いし,ラップに包んでから電子レンジで加熱したところ,ジャガイモを蒸したような匂いが漂ってきました。わくわくする気持ちを抑えて、落ち着いてしっかり味わうよう心掛けて賞味しましたが,未熟なジャガイモのようなザクザクした食感がありました。味は意外にも甘味があり,これではイノシシが食べるのも仕方がないかなと妙に納得した自分が滑稽に思えました。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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