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今月の薬草
クサスギカズラ
Asparagus cochinchinensis Merr. ( ユリ科・APG植物分類体系ではキジカクシ科 )
クサスギカズラ Asparagus cochinchinensis Merr. (ユリ科・APG植物分類体系ではキジカクシ科)果実 クサスギカズラ Asparagus cochinchinensis Merr. (ユリ科・APG植物分類体系ではキジカクシ科)花
果実

クサスギカズラ Asparagus cochinchinensis Merr. (ユリ科・APG植物分類体系ではキジカクシ科)塊根
塊根
 本州から九州,沖縄,台湾,中国南部に分布し,海岸付近などに生育する雌雄異株の多年草です。以前はユリ科に属していましたが,最近はキジカクシ科に分類されています。短い根茎に生ずる根は紡錘状に肥大し,栄養分や水分の貯蔵器官となっています。茎は立ち上がって芽生え,その後,湾曲しながら他の植物などに絡みつき,ややつる状に1〜2m伸長しますが,時には数mに達することもあります。温かい地方に分布しているにもかかわらず比較的耐寒性があり,高冷地などに設置されている薬用植物園の標本園でも容易に栽培することができます。葉は退化して鱗片状になって各節より生じ,砂地などの乾燥した生育環境にも適応しています。その基部から葉状枝といって長さ1〜2cmの線形で3稜のある小枝を出しますが,その形状から葉と見間違われています。花には柄があり,緑黄白色で鱗片状の葉の基部より1〜3個生じて初夏から夏に咲きます。果実は球状で,はじめ緑色ですが後に汚白色に熟します。
 和名の語源は葉(実際は葉状枝)を杉に見立て,茎がつる状に伸長する草本植物ということから名づけられました。そのため漢字では,「草杉蔓」と表記します。薬用には紡錘状に肥大した根を用い,通常,流通している生薬は外側のコルク層を取り除き蒸してあります。生薬名をテンモンドウ(天門冬)といい,鎮咳,去痰,滋養強壮,口の渇きを改善する滋陰降火湯や清肺湯などの漢方処方に配剤されています。
 本植物の仲間には野菜のアスパラガスがありますが,根は紡錘状に肥大することはなく,また果実は秋に紅熟します。原産地は南ヨーロッパから西アジアで,ローマ時代ころより柔らかい芽生えを食用としてきました。日本へは江戸時代にオランダ人によって伝えられましたが,当時は食用ではなく,細い葉状茎の物珍しさからか鑑賞用に栽培されていました。食用としての栽培は,大正時代に北海道で最初に行われたということです。一方クサスギカズラの芽生えは,残念ながら筋っぽく食用にはあまり適していません。仮に柔らかく食用に適していたら山菜として大いに利用され,薬用だけではなく日本の食文化にも少なからず影響を与えたに違いありません。(磯田 進)

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