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今月の薬草
カワラヨモギ
Artemisia capillaris Thunberg ( キク科 )
カワラヨモギ Artemisia capillaris Thunberg (キク科)花 カワラヨモギ Artemisia capillaris Thunberg (キク科)若葉
若葉
 本州から朝鮮半島,中国,ネパールなどに分布し,河原や海岸などの砂地,やや乾燥した原野などに生育する多年生草本植物です。全株,揉むと特有の香りを生じます。草丈は1mくらいになり,茎の下部はやや木質化して半灌木状となっています。葉は互生し,1〜2回羽状複葉で深く切れ込み,コスモスの葉に似て裂片は細長くなっています。また花を生じない茎の葉はロゼット状で長い柄を持ち,花が生じる茎につく葉の基部は茎を抱くようについています。一般的には灰白色で絹状の毛を密生していますが,毛をほとんど生じないこともあります。花は黄緑色,頭状花は球状から卵状で円錐状に多数つき,中心部に両性花,周辺に雌性花を生じ,夏から秋にかけて咲きます。果実は小さく,長さ1mm未満です。稀にですが,根に寄生植物のハマウツボ(ハマウツボ科)が寄生することもあります。
 和名は生育環境に由来し,河原などに生育するヨモギということから名づけられました。薬用には頭花を用います。生薬名をインチンコウ(茵?蒿)いい,利尿や利胆を目的とした茵?蒿湯や茵陳五苓散などの漢方処方に配剤されています。また民間薬として黄疸の改善に用いていました。本草書である「神農本草経」は,薬用効果によって養命の働きを持つ「上薬」,養性の働きのある「中薬」,作用が激しく疾病のときに限って用いるべき「下薬」の三類に分けていますが,このカワラヨモギは長い期間にわたって服用して差支えなく,また養命の効果があるとされ,「上薬」の部に収載されています。日本では主に秋に採取する頭花を利用しますが,中国では春に若い葉を採取して用います。こちらはインチンメン(茵?綿)またはメンインチン(綿茵?)といい同様に用いられますが,利用する植物は同じであっても日本と中国では用いる部位が異なっています。
 最近,多くの分野でグローバルスタンダードに関心が集まっていますが,生薬も例外ではありません。仮に他の国や地域で用いられている生薬が標準になってしまうと,日本で用いられている生薬は,まがい物というレッテルを貼られる可能性が危惧されています。医薬品は医療の根幹をなすものです。たかが生薬と考えず,皆で関心を持ちたいものです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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