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今月の薬草
コショウ
Piper nigrum LINNE ( コショウ科 )
コショウ Piper nigrum Linne (コショウ科)花 コショウ Piper nigrum Linne (コショウ科)果実
果実
 インド原産の常緑の半つる性植物。日本へは古い時代に中国より渡来したといわれ,東大寺の正倉院に伝わる「種々薬帳」(天平勝宝8年・756年)にもその名が記されています。葉は卵形で先端は尖り,互生しています。茎の各節から根を生じ,他物に絡みつきながら伸長します。そのため栽培は支柱や樹木などに巻きつけながら行います。雌雄異花または同花。花は小さく房状に多数つけ芳香があり,果実は丸く紅熟します。インドを始めとして東南アジアやブラジルなどの熱帯地域で,雌雄同花の株を用いた栽培が行われています。ブラジルにおけるコショウの栽培は,昭和の初期に移民した日本人が最初に試み,多くの苦難を克服して一大産地に発展させました。
 和名のコショウは漢名の胡椒を音読みしたものです。「胡」とは西方の地域や民族,「椒」とは辛味を意味しているということです。この「胡椒」という言葉から,中国の西方の地域からシルクロードを経て伝来したことに思いをめぐらすことが出来ます。薬用には果実を用い,芳香性辛味性健胃薬とします。またインドネシアなどに伝わる伝統医療のジャムウでは,風邪や発熱,整腸薬,利尿薬として利用しています。果実に含まれる成分には抗菌作用があり,中世のヨーロッパでは薬用ではなく肉などの防腐剤や臭い消しなどの香辛料として利用していました。当時は熱帯アジアから輸入していたため大変貴重な香辛料で,黄金と同じような価格で取り引きされていたといわれています。
 胡椒は昔から多くの国や地域で香辛料として利用されていますが,収穫時期や加工方法の違いにより黒胡椒や白胡椒,グリーンペッパーなどが知られています。因みに黒胡椒は紅熟直前の未熟な果実を収穫し,そのまま天日で乾燥させたものです。強い香りや辛味が特徴で,肉料理に適しています。白胡椒は赤く完熟した果実を収穫した後,水に浸して醗酵させ果肉を除去して乾燥させたものです。まろやかな香りと辛味があり,魚料理などに適しています。またグリーンペッパーは緑色の未熟な果実を収穫しサッと茹でて塩漬けしたものと,フリーズドライにしたものがあり,爽やかな香りが特徴です。
 一方,赤い色の胡椒を目にすることもありますが,これはウルシ科のコショウボク(Schinus molle)の果実であり植物が異なっています。胡椒は香りと辛みが身上です。いずれの胡椒を用いるにしても,古くなったものでは風味が落ちますので,できれば料理の直前にミルで粉砕し,新鮮な香りと辛味を賞味されることをお勧めします。(磯田 進・鳥居塚和生)

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