社団法人日本薬学会 The Pharmaceutical Society of Japan 日本語 English
サイト内検索 byGoogle

今月の薬草
センキュウ
Cnidium officinale MAKINO ( セリ科 )
センキュウ Cnidium officinale Makino (セリ科)花
 中国原産と推定されている多年生草本植物です。暖かい気候での生育はよくありません。ですから夏季にあまり気温が上がらない北海道や東北地方,長野などの冷涼地で栽培されています。全株に特有の香りがあります。根茎は節が重なり合うように塊状に肥大しています。草丈は30〜60cm,葉は長い柄をつけ,2〜3回羽状に深く切れ込んでいます。花は白色で小さく,花茎の先端に複散形状に多数つき晩夏から秋に咲きますが,果実は結実しません。そのため栽培は根茎を分割して種芋として行っています。
 和名は生薬名をそのまま用いたものです。薬用には根茎を用い,生薬名をセンキュウ(川芎)といいます。生薬名の川芎はその昔,芎藭(きゅうきゅう)と呼ばれていました。中でも四川省産の生薬がもっとも品質がよかったことから,四川芎藭と呼んでいたものが簡略化されて川芎となりました。主に冷え性などの婦人科疾患の改善を目的として用いられ,当帰芍薬散,四物湯などの漢方処方に配剤されています。またその香りから最近は,入浴剤としても利用されています。根茎は乾燥しにくいため,通常は60〜80℃のお湯で15〜20分間湯通ししてから乾燥させます。因みに熱を加えずに乾燥させた生薬は,保存時に害虫の発生が多くなりますが,加熱することにより根茎内のデンプンが糊化するため虫害の発生を防ぐ効果があります。
 センキュウは昔から重要な漢薬原料の一つですが,日本には自生していません。そのため日本に自生している他の植物をセンキュウの代用としていたようです。例えば同じセリ科のオオバセンキュウやシラネセンキュウなどがそのよい例です。ただし,これらの植物は本来のセンキュウとは地上部や地下部の形態がかなり異なっていますので,形の相似から代用としたものではないことは明らかです。おそらくセンキュウの持つ特有の香りを頼りに,代用品として選ばれたのではと想像しています。その当時は,大陸や朝鮮半島から輸入していた高価な生薬に代わる薬草を探し求めて日本各地を調査した多くの本草学者たちがいたことでしょう。植物観察会などでオオバセンキュウやシラネセンキュウなどを説明する際,私はそのような本草学者たちの話しも一緒に紹介するよう心がけています。(磯田 進・鳥居塚和生)

< 戻る

公益社団法人日本薬学会 (The Pharmaceutical Society of Japan)
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷 2-12-15 お問合せ・ご意見はこちらをクリック