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今月の薬草
マグワ
Morus alba Linn ( クワ科 )
マグワ Morus alba Linn (クワ科)花序(雄) マグワ Morus alba Linn (クワ科)果実
花序(雄) 果実
 朝鮮半島から中国にかけての地域に分布し,栽培されている夏緑広葉樹です。雌雄異株。樹高は10mくらいになります。養蚕用に多くの品種が育種されていますが,栽培する場合は地上50cmくらいのところで一度幹を切断し,側芽を生長させて葉を収穫する株立ち栽培が一般的です。葉は卵形から広卵形で,しばしば浅く3裂します。雄花,雌花ともに尾状に多数つき,春から初夏に咲きます。果実は集合果といい,成熟すると黒紫色に肥大し多汁質になるためまるで一個の果実のように見えます。近縁種のヤマグワM. bombycisは各地の山野に自生し,一般的にはマグワ同様,雌雄異株ですが,稀に雌雄同株のことがあります。また葉が厚めのマグワと比較しヤマグワは薄く,養蚕用にはマグワより育成された栽培品種を栽培することが多いようです。
 和名の語源は昔から養蚕との関わり合いが深く,蚕葉(コハ)または食葉(クハ)などから転訛したといわれています。どちらの説でもカイコが好んで食べる葉という意味があります。薬用には根の皮(師部を含む形成層から外側の部分)を用います。生薬名をソウハクヒ(桑白皮)といい,利尿薬や鎮咳去たん薬とします。以前は長野県などの養蚕地帯からも生産されていましたが,現在では養蚕業の衰退から供給のほとんどは中国などからの輸入に頼っています。
 クワといえばほとんどの方が蚕を連想するように,日本や中国,韓国などでは生糸を生産する蚕とクワは切り離すことはできません。日本では鎖国から開国へ,江戸から明治へと移り変わり,富国強兵に向かって官民が一丸となった時代がありました。その牽引力になったのは絹製品の輸出でした。残念なことに近年は農家の老齢化とともに養蚕業が衰退し,荒れ果ててしまった桑園を目にするたびに一抹の寂しさを覚えていました。ところが最近,たわわに実る果実が注目され出しました。これを受けて桑園は蚕の飼料用としてではなく,果実の摘み取り園として見直されてきました。酸味はあまりありませんが,特有の甘味と風味に人気があるようです。また摘み取った果実はジャムなどに加工され,食卓に潤いを与えています。スーパーなどの食品売り場に棚にも並ぶようになりましたので,一度その味を賞味されてはいかがでしょうか。(磯田 進・鳥居塚和生)

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