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今月の薬草
ハナスゲ
Anemarrhena asphodeloides Bunge ( ユリ科 )
ハナスゲ Anemarrhena asphodeloides Bunge (ユリ科)つぼみ ハナスゲ Anemarrhena asphodeloides Bunge (ユリ科)花
つぼみ

ハナスゲ Anemarrhena asphodeloides Bunge (ユリ科)実
 中国の東北部に分布し,日当たりがよいやや乾燥した山野に生育している多年生草本植物です。日本へは享保年間(1716-36)ころに薬用として渡来したといわれ,各地の薬用植物園などで展示用に栽培されています。根茎はやや塊状に肥大して白色の細根を多数生じ,また茶褐色の繊維を密生させています。草丈は1mくらい,葉は広線形で地際より多数出しています。葉の間から花茎を出し,その上部に白黄色から淡青紫色の花を穂状に多数つけ5〜6月に咲きます。果実は長卵形で,その中に翼のある黒色の種子を生じます。
 和名はカヤツリグサ科のスゲのような葉を生じ,地味なスゲの花と比べて大きく(といっても径5〜6mmです),よく目立つことから名づけられました。薬用にはヒゲ根や茶褐色の繊維を取り除いた根茎を用います。生薬名をチモ(知母)といい,解熱を目標とした酸棗仁湯などの漢方処方に配剤されています。しかし民間薬として,単独で用いることはほとんどありません。
 一般的に花は日中開花していることが多いものですが,中にはアカバナ科のマツヨイグサなどの様に,夜に咲く花も珍しくはありません。同様にハナスゲも夜に開花し,翌朝には萎んでしまう一日花です。そのため日中しか目にしなかったこともあり,しばらくの間は開花しない閉鎖花とばかり思っていました。ある日のことです。薬草園に忘れ物を思い出しましたので夜に出向いたところ,たまたま標本園のハナスゲの花に目がとまりました。近づいて観察したところ,普段見慣れている小さな花とは異なり,花はラッパ状に開いて特有の甘い香りがあることに気がつきました。この時ばかりは日中だけではなく,時には夜間も観察しなければと強く感じました。最近は植物園で夜間の観察会が開催されていることが多くなりましたが,とても人気があるということです。お近くの植物園でそのような行事が開催されていましたら,是非参加してみてください。昼間では見たり感じたりできない植物の生態に,思わぬ感動を体験できるかもしれません。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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