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今月の薬草
オオツヅラフジ
Sinomenium acutum REDER et WILSON ( ツヅラフジ科 )
オオツヅラフジ Sinomenium acutum Rehder et Wilson (ツヅラフジ科)
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 日本の関東以西から中国にかけて分布し,林縁などに生育している落葉性の蔓性植物です。蔓は樹木などに絡みつき,樹木を覆ってしまうくらい生育していることもあります。雌雄異株。葉は互生して長い葉柄をつけ,葉身は円形から卵状円形でしばしば5〜7つに浅または中くらいに裂けていますが,その形は変化に富んでいます。面白いことに秋の落葉時,初め葉身が落葉し,後に葉柄が脱落します。花は淡黄緑色で小さく,円すい状について夏に咲きます。果実はやや扁平で歪んだ球状になり,秋に黒青色に熟します。
 和名は近縁種のアオツヅラフジと比べ葉や茎などが大形で,茎は丈夫でしなやかな蔓であるところから,古来,葛籠の材料として利用したことに由来しています。しかし本種の方がよく用いられたため,単にツヅラフジとも呼ばれることもあります。薬用には太めの茎および根茎を用います。生薬名をボウイ(防已)といい,鎮痛や利尿を目的とした防已黄耆湯などの漢方処方に配剤されています。
 一昔前と比べ,登山の人気は今一つの感があり,いつの頃か若者より中高年の登山客が多くなってしまいました。植物観察を兼ねた登山を趣味としている私などは,この現状に対し一抹の寂しさがあり残念でなりません。幾重にも曲がりながら続く九十九折りの急斜面の登山道を,息を切らしながら登らなくてはならないときには,確かに体力的にも精神的にも辛いと思うことがあります。もう登山は卒業しようと脳裏をかすめたことは,一度や二度ではありません。しかし頂上にたどり着き,周囲の景色を眺めながらの達成感は何にも代え難い満足感があります。もはや先ほどの邪念?は忘れ去り,次はどこの山へ行こうかと考えてしまうほどです。このような登山道をはじめ,急斜面をジグザクに登る道を「九十九折り」または「葛折り」の坂道と表現します。その道筋から蔓性の植物が樹木に絡みついている様子や,蔓を編んで制作した葛籠の様を表現したものです。普段,何気なく使っている言葉の中には,その語源が植物に由来していることも少なくありません。(磯田 進)

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