社団法人日本薬学会 The Pharmaceutical Society of Japan 日本語 English
サイト内検索 byGoogle

今月の薬草
サジオモダカ
Alisma orientaleJUZEPCZUK ( オモダカ科 )
サジオモダカ Alisma orientale Juzepczuk (オモダカ科)花
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 東アジア北部に分布し,湖沼などの湿地に生育する多年生草本植物です。薬用を目的に長野県や北海道などで栽培していることもありますが,生産量は少なく,ほとんどは中国や韓国などから輸入しています。地下茎は塊茎状に肥大し,細根を多数生じています。草丈は50〜100cm,葉は根元から叢生し,葉身は一般的には卵状長楕円形で先端は尖り,基部はやや心形で長い柄を生じますが,葉身の形状は変化に富んでいます。花は小さく白色の花びらが3枚あり,葉の基部から生じる花茎に輪生状の総状に多数つき,夏から初秋に咲きます。
 和名は葉の形状が匙(スプーン)に似ているオモダカの意味があります。オモダカとは,葉の形が人間の顔に見えることから「面高」に由来しています。但しオモダカは別属の植物で,オモダカを改良した栽培品種には,お煮しめなどの具材とするクワイがあります。さてサジオモダカですが,葉身は突き出るように葉柄につき,薬用には塊茎の細根や表面のコルク層を取り除いて利用します。生薬名をタクシャ(沢瀉)といい,利尿や口渇,尿路疾患の改善を目的として胃苓散や五苓散などの漢方処方に配剤されています。沢瀉のいわれについて中国の李時珍(1518-1593)によれば「水が去るを瀉(ソソ)ぐといい,沢の水を瀉ぐが如し」と述べているように,利尿などの薬能に由来しています。
 オモダカを広辞苑や大辞林などの国語辞典で調べますと,漢字表記を「沢瀉」としています。オモダカの花や葉を図案化した家紋や紋所でも,沢瀉や長門沢瀉,抱き沢瀉,沢瀉巴など,「沢瀉」の字が用いられています。しかしながら本来「沢瀉」はサジオモダカに当てられるべきもので,オモダカの漢名は「野茨菰」と書くものです。そのため混乱に拍車が加わり「沢瀉」説が一般的となってしまいました。牧野富太郎先生は,図鑑などでその誤りを指摘していますが,国語辞典では未だに修正されないまま今日に至っています。これは誤った内容であっても,長期間言い続けたり,活字として残る事により,時には真実に擬態してしまう恐ろしさを秘めています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

< 戻る

公益社団法人日本薬学会 (The Pharmaceutical Society of Japan)
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷 2-12-15 お問合せ・ご意見はこちらをクリック