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今月の薬草
トチバニンジン
Panax japonicusC.A.MEYER ( ウコギ科 )
トチバニンジン Panax japonicus C.A.Meyer (ウコギ科)果実 トチバニンジン Panax japonicus C.A.Meyer (ウコギ科)果実(アップ)
果実 果実(アップ)
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 全国各地に分布し,やや湿り気のある林床に生育する多年生草本植物です。草丈は50〜80cm,根茎は白色で太くて節があり,各節には地上茎の痕跡が認められます。葉は3〜5枚輪生し,葉身は掌状複葉で小葉(3〜5枚)は倒卵形を呈し先端は尖っています。花は淡緑色で小さく,茎の先端に長い柄を出して散形状につき夏に咲きます。果実は径6mmくらいの球状で秋に紅熟します。稀に上半分が黒色を帯びた果実もあり,ソウシシヨウニンジン(想思子様人参)と呼ばれています。
 和名はヤクヨウニンジンの仲間で,葉がトチノキの葉にとてもよく似ていることから名づけられました。実際にトチノキが生育している環境はやや湿り気があり,根元付近は日陰になりなります。そのためトチノキの芽生えも多く,さらに薄暗いことから見間違ってしまった経験は一度や二度ではありません。生薬名をチクセツニンジン(竹節人参)といい,鎮咳去たん薬や健胃薬とします。その名称は,根茎の形状が竹類の根茎に類似していること由来しています。かつてヤクヨウニンジンの代用品として利用されていた時代もあり,薬理学的にはヤクヨウニンジンと重複するところがあります.しかしチクセツニンジンは異なる成分を含有していたり,鎮咳・去痰作用を有するなどの相違があることから,代用品というよりはむしろ別のものとして扱われます。
 日本に分布するトチバニンジンの仲間は本植物一種(研究者によって若干異なる)だけですが,世界中には人参の基原植物であるヤクヨウニンジンも含め10種近くが確認されています。トチバおよびヤクヨウニンジンの地下部の形状はかなり異なり,区別は容易です。しかし地上部はとてもよく似ているため,日頃見慣れた人でもその区別は難しいようです。因みにトチバニンジンの果実は球状ですが,ヤクヨウニンジンのそれは扁平になっている点で異なります。以前,大学のクラブ活動(薬用植物研究会)で,福島県の合宿に同行した時のことです。学生が果実のないトチバニンジンを見つけました。そこで植物の説明を行った後,標本用にと一株掘り取ったところ,地下部の形状からヤクヨウニンジンであることに気がつきました。どの様な経緯でヤクヨウニンジンが生育したのだろうと大変興味を持ちました。よくよく考えると少し離れてはいるものの,会津人参の産地に近いことに気がつきました。おそらく鳥が運んできたのだろうと推測しましたが,お陰で学生だけではなく,私も貴重でとてもよい経験となりました。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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