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今月の薬草
ヒキオコシ
Rabdosia japonica HARA ( シソ科 )
ヒキオコシ Rabdosia japonica HARA (シソ科)花
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 全国各地に分布し,やや乾燥した山野に生育する多年生草本植物。草丈は1mくらいになり,全株,下向きの細毛を密生し,強い苦味があります。葉は対生し,葉身は広卵形で先端は尖り,基部は狭くなり,葉柄に翼状に流れています。また縁に鋸歯があります。花は淡紫色を呈し筒状唇形小さく,枝先や葉腋に花穂を出して多数つき秋に咲きます。花冠の上部は反り返り,紫色の斑点を生じます。果実は球状で小さく,筒状の萼の底に生じています。
 和名は「引起こし」の意味があります。その由来は弘法大師が諸国を行脚していた折り,道ばたに倒れている病人を発見したため本植物の汁液を飲ませたところ,倒れていた病人を引き起こすかのように病が治ったという故事から名づけられました。また生薬名をエンメイソウ(延命草)といいますが,和名と同様の意味があり,野垂れ死にする危険があった病人が,本植物を用いたお陰で寿命が延びたという故事によるものです。 
 薬用には葉や柔らかい先端部分の茎葉を用います。古くから民間では腹痛などの気付け薬としていましたが,西洋医学の影響を受け始めた江戸時代後期以降では苦味健胃薬として用いるようになりました。苦味成分は全草,特に葉や枝先の茎葉に多く含まれています。葉は乾燥する過程で脱落し易くなるため,乾燥作業では細心の注意が必要となります。
 苦味はかなり薄めても残るほど強く,一度口にされた方の多くはその苦味を決して忘れることはないでしょう。しかし苦味健胃薬としての利用としては,キハダやオウレン,リンドウのように広く用いられているわけではなく,今一つの感があります。この苦味成分はアルカリ性の条件では分解されやすく制酸剤との併用が困難なことから,かつては第五改正日本薬局方に収載されていたこともあったのですが,第六改正日本薬局方以降では削除されてしまいました。苦味健胃薬として一般化しなかった背景は,このような化学的な理由によるものです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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