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今月の薬草
カキ
Diospyros kaki THUNB. ( カキノキ科 )
カキ Diospyros kaki THUNB. (カキノキ科)雌花 カキ Diospyros kaki THUNB. (カキノキ科)果実
雌花 果実
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 日本の西南部から中国大陸に分布し,各地で果樹として栽培する高木の夏緑広葉樹です。葉は互生し,葉身は広楕円形で先端は尖り,秋に美しく紅葉します。花は淡黄色で広鐘形を呈し,雌雄雑居性といい,雌花や雄花だけではなくしばしば両性花をつけ,初夏に咲きます。花の外側につく萼はヘタともいい,花後も宿存します。果実は栽培品種によって大きさだけではなく,その形状も卵形や球形,扁球形と変化に富んでいます。また秋に黄から紅熟しますが,熟しても甘味のあるものや渋味のあるものなど様々です。しかし甘柿であっても,高冷地などで栽培すると十分に熟すことができず甘くならないこともあります。甘味のある品種はそのまま食することができますが,渋味のある品種は,アルコールや温水で渋を抜き,また干し柿に加工して食します。
 和名は定かではありませんが,朝鮮語由来説,または果実が紅熟することから赤木(あかき)から転訛したとする説など諸説あります。分布や栽培が東アジアであるため,学名の種小名に和名のカキをそのまま用いたkakiが採用されています。薬用には緑色をしている萼を用います。生薬名をシテイ(柿蔕)といい,しゃっくり止めや胃腸虚弱を目的とした丁香柿蔕湯などに配剤されています。
 柿は果物として利用するだけではありません。柿渋は,かつて和傘などに使用する和紙に塗布し防水性を高めるため利用されたり,材木の防腐剤として利用されたりしていました。また葉は柿の葉寿司などに用いたりしていました。この様に,柿は昔から私たちの生活と深い関わり合いを持っています。そのため柿を例えにした多くのことわざが言い伝えられ,中には「柿が赤くなると医者が青くなる」などの医療に関わるものもあります。現在のように栄養状態がよくなかった時代に,ビタミン類の豊富な柿が紅熟して甘味を増す季節になると,柿をよく食べた庶民は健康を増進させ,その結果,医者のお世話にならなくなったという例えです。このことわざから,当時の栄養状態を垣間見ることができますし,柿の栄養価の優れていることを端的に表現しています。とはいえ「過ぎたるは及ばざるがごとし」,江戸時代に貝原益軒によって著された「養生訓」(1713)には「柿は便秘しやすいので食べ過ぎないこと」と注意を促す文が書かれています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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