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今月の薬草
キバナオウギ
Astragalus membranaceus BUNGE ( マメ科 )
キバナオウギ Astragalus membranaceus BUNGE (マメ科)花
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 中国や朝鮮半島からロシアにかけて分布し,砂質地や草原などに生育している多年草です。日本では,各地の薬用植物園などで標本や見本用に栽培しています。茎は直立して草丈は1mくらい,葉は奇数羽状複葉で小葉は楕円状を呈しています。日本には近縁のタイツリオウギ( A.membranaceus var. obtusus )が高山帯の草原や荒原などに生育し,根は太くて繊維質に富んでいます。花は淡黄白色で茎の先端に総状につき,夏に咲きます。果実はやや膨らみ半卵円形状となり,種子は黒色で腎臓形をしています。
 和名は淡黄白色の花をつけ,生薬の黄耆の基原植物として用いることから名づけられました。薬用には根を用い,太く,柔軟性があるものが良品とされています。生薬名をオウギ(黄耆)といい,保健強壮を目的とした黄耆建中湯などの漢方処方に配剤されています。
 本植物は根に根粒バクテリアが共生しているため,空気中の窒素を有機物として取り込むことができ,栄養分の少ない砂質地や草原などでも生育することができます。しかし花が地味なためか観賞用として栽培することもなく,また根を漢方処方に配剤する以外,民間薬として利用することもないため,一般的にはあまり馴染みのない薬草の一つかもしれません。しかし同じ仲間には,よく知られるレンゲ(ゲンゲ)( A. sinicus )があります。こちらも中国原産で江戸時代に渡来し,前年の秋に発芽して翌春にピンクの花が咲く2年草です。レンゲも根に根粒バクテリアが共生している植物の一つですが,かつては農作物の貴重な緑肥植物でした。江戸時代の本草書である松平君山(1697-1783)が著した「本草正偽」(1776)にも,畑の肥料や家畜の飼料として用いたことが記載されています。以前は野に咲くレンゲは,日本の春を演出する代表的な風景でしたが,化学肥料の普及に伴い,緑肥としての栽培は激減してしまいました。しかし近年,緑肥として再認識されつつあり,また村興し,町興しとして各地で栽培が復活し始めました。花が見頃になる春になりましたら,お近くのレンゲ畑を散策され,時には昔を思い出してレンゲの首飾りなどを編んでみてはいかがでしょうか。そして同じ仲間の植物には,重要な漢薬として利用するものがあることを思い出してください。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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