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今月の薬草
チョウセンゴミシ
Schisandra chinensis BAILLON ( マツブサ科 )
チョウセンゴミシ Schisandra chinensis BAILLON (マツブサ科)花 チョウセンゴミシ Schisandra chinensis BAILLON (マツブサ科)果実
果実
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 本州中北部から北海道,朝鮮半島,中国,ロシアに分布し,林床や林縁などに生育する落葉性の木質つる性植物です.雌雄異株.葉は倒卵形から倒卵円形で無毛,花は芳香があり白色から淡黄白色で下垂し,初夏から夏に咲きます.果実は球形で松ヤニに似た特有の芳香があり,晩秋に紅熟します.
 和名は,江戸時代に生薬の五味子として朝鮮半島から輸入していたことに由来しています.薬用には果実を用います.生薬名はゴミシ(五味子)といい,滋養強壮薬とします.また五味子とは,酸味,苦味,甘味,辛味,鹹味(塩からい)の五つの味がするということで名づけられました.
 植物の名だけで判断すると帰化植物と勘違いされそうですが,前述のように日本を含む東アジアに広く分布していますので,和名は果実を朝鮮半島から生薬として輸入していたことによるものです.実は当初,生薬として果実のみを利用していたため,実際にどのような植物であったかは分かりませんでした.しかし本草学者であり博物学者,発明家であった平賀源内が,幕府のお薬園で生薬から得た種子を播種,栽培しました.おそらくかなりの試行錯誤があったと想像できますが,開花,結実するまで栽培できるようになると,駿河の国に分布,生育している植物と大変よく似ていることに気がついたようです.そこで採取したものと比較栽培を行った結果,両種は同じ植物であることが判明し,その植物をチョウセンゴミシと呼ぶようになりました.その後は,駿河産だけではなく富士山北麓で採取した五味子が幕府へ献上されるようになりました.
 当時の本草学(植物学)には,種の進化という概念はまだありませんでしたが,形態的に比較検討できるレベルにまで達していたことが理解できます.この自然科学的なレベルは,同時代のヨーロッパ本草学に決して引けをとるものではありませんでした.日本国内に分布,生育していたにもかかわらず,外国原産の帰化植物のような和名がつけられたのはこのような理由からです.(磯田 進・鳥居塚 和生)

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