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今月の薬草
イヌサフラン
Colchicum autumnale LINN. ( ユリ科 )
イヌサフラン Colchicum autumnale LINN. (ユリ科)花
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 ヨーロッパから北アフリカにかけて分布し,少し湿り気のある原野や牧場などに生育している多年生草本植物です。日本へは明治時代初期に渡来し,各地の植物園や庭などで観賞用に栽培されています。葉は広線形で春に出葉しますが,夏には枯れてしまいます。花は9月から10月頃に咲き,ロート状で淡紅紫色を呈しています。果実は楕円状のさく果で花柄の先端につき,種子は球状で黒色に熟します。
 薬用には鱗茎または種子に含まれているコルヒチンを用います.過去にリウマチ治療薬としてエキスのチンキ剤を用いられたこともありましたが,現在では単離精製したコルヒチンが製剤原料として利用されています。長期間投与により,再生不良性の貧血など重篤な副作用の報告があり医師の指示のもとに使用されます。また医療への利用のほかに,コルヒチンは植物細胞中の染色体を倍化する作用があることから,農作物の品種改良にも利用されています。アヤメ科のサフランに似た花をつけることから,和名はイヌサフランと名づけられました。雌しべの先端が3つに分かれている点は同じですが,イヌサフランの花は,紅色ではなく白色を呈しています。
 最近,毒草による中毒事故が多発しています。この中で,死に至ってしまう事故例は特定の植物種が多いように思います。そのようなことから毒草による中毒事故を未然に防ぐため,機会ある毎に市民講座などでお話しして注意を促すよう努めています。例えばコンフリーと誤認されやすい,強心作用の強いジギタリスの芽生え,山菜のウルイ(オオバギボウシの芽生え)と誤認されやすいバイケイソウ,同じく山菜のシドケ(モミジガサの芽生え)やニリンソウなどと誤認されやすいトリカブトなどが挙げられます。更に最近では観賞用として栽培しているイヌサフランやグロリオサの芽生えや鱗茎,根茎を,ジャガイモやヤマノイモ,ギョウジャニンニクなどの野菜と誤認する事故が目立つようになってきました。それらの植物にコルヒチンが含まれていることは以前から知られていましたが,このような誤認事故は私たちにとって想定外の中毒事故といえます。鑑賞や園芸用として出回り,目に触れる機会が増えていたことによるのでしょう.
 近年,多くの領域で危機管理が問われるようになりました。これからは園芸植物や鑑賞植物などの領域でも,有毒植物に対する危機管理が必要な時代になったようです.正しい知識を伝える必要性が高いと痛感しているところです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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