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今月の薬草
ゲンチアナ
Gentiana lutea LINN. ( リンドウ科 )
ゲンチアナ Gentiana lutea LINN. (リンドウ科)花
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 ヨーロッパ原産,ピレネー山脈やヨーロッパアルプスなどの亜高山帯に生育する多年草で,全株強い苦味があります.草丈は1m以上になり,根生葉は有柄で葉身は長さ30 cmの広卵形,茎につく葉は対生し,根生葉より小さく卵形状です.花は葉の基部に輪生状について夏に咲き,花冠は深く切れ込んでいます.リンドウの仲間としては珍しい黄色い花をつけます.
 和名は学名(属名)のGentianaに由来し,秋の草原に咲くリンドウと同じ仲間になります.生薬名もゲンチアナといい,苦味が強いことから消化不良や食べ過ぎ,胃のむかつき,食欲不振などを目的にした苦味健胃薬として利用します.市場に流通している生薬には特有の香りがあり,根の色は赤褐色をしています.ところが,ゲンチアナの収穫直後の生の根や,天日で急速に乾燥させた根にはほとんど香りがなく,根の色も淡褐色を呈しています.特有の香りと色をもつようになるのは,収穫後一定期間,醗酵させることによるのです.これにより含有成分の一部が分解して芳香のある成分が生成され,同時に根の色が赤褐色に変化します.
 梅雨が本番を迎える頃になると,皆さんのご家庭でも梅酒造りをされるのではないでしょうか.梅酒は日本を代表するリキュールの一つです.ご存じのようにリキュールとは,蒸留酒に果実やハーブ,薬草などを加え,さらに砂糖などを添加して調整した酒類です.その歴史は紀元前の古代ギリシャに遡り,医師であったヒポクラテスがワインに薬草を加えて造った薬用酒が起源とされています.現在は蒸留酒を用いたものが一般的となっていますが,当時は蒸留酒ではなく醸造酒であったようです.ゲンチアナはヨーロッパで薬用として古くから利用されていたことから,19世紀末にフランスの酒造メーカーがゲンチアナや数種のハーブ,砂糖を加えたリキュールを製造しました.意外なことに苦味健胃薬としての苦味は爽やかな苦味に変化し,その味覚と澄んだ黄色のリキュールは,ピカソを初めとして多くの画家たちに愛されたということです.
(磯田 進・鳥居塚 和生)

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