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今月の薬草
ニガキ
Picrasma quassioides Bennet. ( ニガキ科 )
ニガキ Picrasma quassioides Bennet. (ニガキ科)雄花 ニガキ Picrasma quassioides Bennet. (ニガキ科)果実
雄花 果実
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 日本から朝鮮半島,中国,ヒマラヤにかけての地域に分布する小高木で,雌雄異株の夏緑広葉樹です。冬芽は裸芽といい多くの冬芽とは異なって鱗片葉はなく,褐色の短毛で被われ小さな葉を握り拳のような状態で冬を過ごしています。葉は互生し,葉身は羽状複葉です。花は雄花,雌花とも黄緑色で小さく総状に多数つけ,初夏に咲きます。果実は広楕円形で緑黒色に熟します。ニガキの仲間はおもにアジアの温帯から亜熱帯,熱帯に分布していますが,本種はその中でも最も北に分布している種類です。
 和名は,葉や幹,枝などすべてがとても苦いところから,和名もそのままニガキ(苦木)と名づけられました。その苦味の故に,アイヌの人たちも苦い木を意味しているシウニ,秋田ではクスリギ(薬木),鹿児島ではニガッなどと呼んでいるということです。薬用には材(木部)を用い,生薬名もニガキといい苦味健胃薬として用います。苦味が強く樹皮のついていないものが良品とされます。そのため樹皮が剥がれやすい7月頃が適期となります。全株に強い苦味がありますが,老木になると苦味は弱くなるようです。
 最近,食の安全性から残留農薬が大きな社会問題となっています。近代的で衛生的な工場で食品が加工されても,食材の農産物に残留農薬が心配されるならば片手落ちとなります。しかしながら農産物の安定供給を考えると,無農薬栽培にも限界があります。そのためにもより安全性の高い農薬の開発が求められています。かつて日本ではニガキなどを煎じ,家畜や農作物などの殺虫剤として利用していました。化学合成農薬と比較すればその効果は弱いようですが,食の安全を問われている昨今,毒性がほとんどなく環境にもやさしい天然素材の農薬として,無農薬野菜の栽培を手がけている農家の人たちの関心を集めているようです。温故知新として昔の知恵を見直すよい機会でもありますね。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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