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今月の薬草
アサ
Cannabis sativa LINNE ( アサ科 )
アサ Cannabis sativa LINNE (アサ科)雄花 アサ Cannabis sativa LINNE (アサ科)雌花
雄花 雌花
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 中央アジア原産の1年生草本植物です。雌雄異株といわれていますが,稀に雌雄同株も見られます。古い時代から繊維用植物として,世界各地で栽培されています。葉は掌状に深く切れ込んでいます。雄花は淡黄緑色で,円錐状につき,雌株は緑色で短い穂状について夏から秋にかけて咲きます。果実はほぼ球形でやや扁平となっています。日本へは有史以前に渡来したといわれています。
 和名は青麻の意味があり,緑色を帯びた皮から採る繊維に由来したアオソが転訛してアサになったといわれています。薬用には果実を用います。生薬名をマシニン(麻子仁)といい,瀉下薬とみなされる漢方処方に配剤されています。また七味唐辛子などにも調合されています。このように有用なアサですが,花序(特に雌花序)には幻覚を生じる麻薬成分が多く含まれているため,大麻取締法の対象植物に指定されています。従ってその栽培や所持は制限され,違反すると厳しく罰せられます。
もともとは繊維用植物として利用されていたアサですが,最初に薬物として利用したのはおよそ5,000年の以上前の南ロシアの遊牧民族であったスキタイ人といわれています。彼らは羊を放牧していたためテントによる生活が普通でした。たまたまテントの中で薪としてアサを焚いていたところ,その煙を吸った遊牧民は心地よい快楽感を得られたことが始まりのようです。当時は日々の疲れを癒すものとして利用していたと推測されています。中国の華佗(?-208)はアサの鎮痛作用を利用し,開腹手術時の麻酔薬として用いたということです。その後,快楽だけを目的とした誤った使われ方をするようになり,深刻な社会問題を起こすことになってしまいました.その様な背景から麻薬成分を含まない品種の開発が急務でしたが,先年,九州大学の西岡(元)教授と正山(前)教授らのグループが,バイオテクノロジーを利用して麻薬成分を含まない品種の育成に成功しています。しかしながらそのような品種であっても,麻薬成分を含む品種と交雑すると,その種子から生じた株は麻薬成分を生産してしまいます。栃木県鹿沼地方の農家では繊維用として栽培していますが,交雑しないよう細心の注意を払って栽培しているとのことです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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