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今月の薬草
ヨウシュチョウセンアサガオ
Datura stramonium LINNE var. tatura MUNEL. ( ナス科 )
ヨウシュチョウセンアサガオ  (ナス科)花 ヨウシュチョウセンアサガオ  (ナス科)果実
果実
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 熱帯アメリカ原産の1年生草本植物です。日本へは明治時代始めに渡来しましたが,現在では温暖な地域に野生化しています。花は淡紫色でロート状になり夏から秋にかけて咲き,夕方より開き朝になると萎んでしまう一日花です。果実は広卵形で大小異なる刺を密生させ,種子は扁平で黒熟します。
 和名はヨーロッパより渡来した朝鮮朝顔の意味があります。しかし原産地は上記のようにヨーロッパではなく,熱帯アメリカ原産です。チョウセンアサガオは花をヒルガオ科のアサガオに見立てたものですが,チョウセンについての語源は不明です。おそらく花の印象が日本的ではなく,渡来植物ということから朝鮮と表現したのでしょう。薬用には種子や葉を用います。またそれらに含まれている成分のアルカロイド類を分離精製し,製剤原料とします。薬効としては鎮痛作用などがありますが,誤って食べてしまうと,嘔吐や下痢,異常な興奮,また苦しさのあまり幻覚症状を引き起こします.種子をゴマと誤り食し中毒になるなどの事故が毎年数件発生しています.またチョウセンアサガオの類はナス科ですので,ナスと接ぎ木をすることができます.この有毒成分は台木から接ぎ穂へ移行しますので,収穫したナスを食べたところ中毒症状が現れたという事例もあります.このように一般の人にとっては有毒植物そのものといえます。
 世界で最初に乳ガンの摘出手術に成功したのは,江戸時代後期の医師、華岡青洲でした。華岡青洲はヨウシュチョウセンアサガオの近縁種であるチョウセンアサガオを主とし,これにトリカブト,ヨロイグサ,トウキ,センキュウ,カラスビシャクそしてマムシグサ類などを調合して「通仙散」という麻酔薬を開発しました.「通仙散」の開発に当たっては,妻や母親が争って実験に協力し,手術を成功させました.1805年のことです.有吉佐和子原作の「華岡青洲の妻」では,この嫁,姑の葛藤が小説として取り扱われ,映画や芝居としても取り上げられていますので,ご記憶の方も多いのではと思います。因みにこの「通仙散」という麻酔薬の使用は,エーテル麻酔をアメリカの歯科医師モートンが抜歯に利用したことや,外科医師のウォレンが腫瘍の摘出手術に利用したことの,およそ40年も前のことになります。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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