社団法人日本薬学会 The Pharmaceutical Society of Japan 日本語 English
サイト内検索 byGoogle

今月の薬草
ウツボグサ
Prunella vulgaris LINNE var. lilacina NAKAI ( シソ科 )
ウツボグサ Prunella vulgaris LINNE var. lilacina NAKAI (シソ科)花
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 北半球の温帯に分布し,日当たりのよい山野に生育するシソ科の多年生草本植物です。株全体に粗い白毛を生じています。葉は対生し,葉身は卵状楕円形をしています。花は紫色から淡紅紫色で花茎の上部に密につけ,初夏から夏に咲きます。シソ科植物の多くは,一般的に精油を含み芳香がありますが,本種には特有の芳香がありません。
 和名は,花穂の形が弓矢を入れる靱(うつぼ)に見立てて名づけられました。薬用には開花期の花穂を用います。生薬名をカゴソウ(夏枯草)といい,利尿薬として残尿感や,排尿に際し不快感が生じるような時に用います。また民間薬として,口内炎や扁桃腺炎などの炎症を和らげる時にも用います。因みに学名のPrunellaは扁桃腺炎という意味があり,ヨーロッパでも近縁のセイヨウウツボグサを,喉の炎症を和らげるためのうがい薬として利用していたことに由来します。このように民間薬的な用いられ方をしていたため,セルフヒールという英名が付けられています。夏枯草の語源は,葉に先立って夏に花穂が枯れることに由来しています。
 シソ科植物の中には観賞用として栽培される種類が多く,ウツボグサと同じように花が円錐形に密につける種類には,香料や芳香性健胃薬としてもちいるモナルダ(別名タイマツバナ,ベルガモット)などがあります。花の色も赤や白,ピンクと色鮮やかで人気があるようです。ウツボグサの花は地味な淡青紫色のため,山野草として栽培される以外は観賞用としては,あまり人気がないようです。最近,ヨーロッパからコーカサス地方にかけて分布する,花穂の大きなタイリンウツボグサが植物園などで栽培されることが多くなりました。花色は同様に人目を引くほど鮮やかではなく,観賞用としては今一つ人気が出ないと言うことです。最近の急速に進んだバイオテクノロジーにより,紅色や黄色など色鮮やかな花が育種されたならば,薬用だけではなく観賞用として,もう少し人気が出るのではないかとも想像を膨らませますが,この風合いにこそ静かな美しさを感じるものでもあります。(磯田 進・鳥居塚 和生)

< 戻る

公益社団法人日本薬学会 (The Pharmaceutical Society of Japan)
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷 2-12-15 お問合せ・ご意見はこちらをクリック