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今月の薬草
シナマオウ
Ephedra sinica STAPF ( マオウ科 )
シナマオウ  Ephedra sinica STAPF (マオウ科)花
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 中国原産の草本状の小低木。雌雄異株。イチョウやマツなどと同じ裸子植物に分類されます.茎の形状は庭で栽培されているトクサ(木賊)によく似ています。乾燥地帯に生育しているため,葉は小さく膜質鞘状に変化しています。花は5月頃に咲き,雄花は小さな穂状につけ,雌花は単生しています。偽果は肉質で夏に紅熟します。
 和名は中国に分布,生育するマオウということでシナマオウと名づけられました。薬用には緑色を帯びた地上茎を用います。生薬名をマオウ(麻黄)といい漢方処方では,鎮咳薬,去痰薬として知られる葛根湯や麻黄湯などに配剤されています。含有成分はエフェドリンというアルカロイドですが,これは現代医学でも喘息治療薬,鎮咳薬,気管支拡張薬として繁用される重要な医薬品です。エフェドリンはお茶やコーヒーなどに含まれているカフェインと一緒に摂取すると,頭痛やめまい,不整脈,心臓発作などの症状を発現するという報告があります。一般的に馴染みのある葛根湯などでも,不適切な使い方をすると思わぬ副作用が発現する可能性もあるので注意が必要です。
 マオウはおもに乾燥した地域に分布しています.そのため葉を小さな鱗片に変化させ,葉からの水分の蒸散を抑制しています。そして茎は葉に代わって光合成を行うようになりました。マオウと同じように葉の代わりに他の器官が光合成を行っている植物は意外に多くあります。砂漠に生育しているサボテンなどは,葉を退化または刺状に変化させ茎が光合成を行っている例として良く知られています。ラン科のクモランは根が蜘蛛の足のように四方に伸びていることから名づけられていますが,この植物は水分や養分の供給が不安定な樹木の幹に着生しているため,しばしば葉をつけず根が光合成の機能をも担うことがあります。このようにマオウは乾燥した地域で生育するのに適応した植物だということがご理解できると思います.
 マオウは重要な生薬ですが,一方では,乾燥地帯に生育することから無計画な採集による緑地の減少と砂漠化も深刻な問題になりつつあります.そのため中国政府は内陸部の砂漠化を防ぐために,マオウなどの輸出にも規制措置をとるようになって来ました.環境保全をはかりながら天然資源の有効利用を図るための工夫が緊急の課題になっています.(磯田 進・鳥居塚 和生)

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