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今月の薬草
カノコソウ
Valeriana fauriei BRIQUET ( オミナエシ科 )
カノコソウ Valeriana fauriei BRIQUET (オミナエシ科)花
−写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載−
 日本や朝鮮半島,中国などに分布し,やや湿り気のある草原などに生育している多年生草本植物で,薬用や観賞用として栽培されています。全草,とりわけ根には特有の臭いがあり,乾燥するとさらに強くなります。花はとても小さくて淡紅色を帯び,5〜7月に咲きます。
 和名は,密に咲く花やつぼみの模様を白地に淡紅色の鹿の子絞りに見立てて名づけられました。鹿の子は子鹿の斑点模様に由来します。中国では纈草 (ケッソウ) といいますが,これは花を絞り染めの模様に例えたものです。薬用には根を鎮静薬として用い,生薬名をカノコソウまたはキッソウコン (吉草根) といいます。
 和名の由来になった鹿の子絞りは絞り染めの一技法で,基本的には布の一部を糸などで固く結んで染色液に浸すと,結んだ部分が染色されずに生じる模様を利用したものです。その歴史は古く,織物が発達した地域ごとに独自に発生したといわれ,奈良の正倉院にも纐纈裂地 (こうけちきれじ) として保存されています。初めは大変素朴な模様だったのですが,日本では技法が高度に発達し,精緻な模様が作り出されるようになりました。中でも,その絞りがとても細かく,手間と時間がかかる鹿の子絞りは,とても高価な染め物の一つです。江戸時代には生地一面に施された華麗な総鹿の子は,幕府の大名,高級官僚,宮廷の公卿,裕福な町人,そして遊里の太夫たちに好まれ,贅沢の象徴となりました。そのため幕府は天和三年 (1683),華やかな総鹿の子に対して華美や贅沢を戒める目的で総鹿の子禁止令を出したほどでした。(磯田 進)

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