〜博士課程進学の重要性について〜第一線で創薬にたずさわる研究者になるために日本薬学会キャラクターナガイ博士ず日本語で記された質の高い論文を数多く読み、研究室内で議論することを推奨します。③ AIは1秒も休むことなく情報を蓄積し続け、汎用性の高い形で提供しますが、その情報が正しいか否かの判断はAIには出来ません。PubChemやSciFinder等のデータベースに登録されている化合物情報や生物活性検定は全て正しいとは限りません。情報を正しく取捨選択するために必須なことは、正しい基礎知識に基づく論理的思考能力です。これに加えてクリエイティブな発想力がなければAIに仕事を奪われることになります。④ 博士課程修了者に求められるリーダーシップは、大切な資質の一つです。一方で、人それぞれの性格は異なっています。自分は内気でリーダーにふさわしくないのではないかと悩む学生もいるでしょう。それでも経験を積むことで自信がつき、周りを見る力創薬は、有機化学、薬理学、薬剤学など様々な専門分野の知識と技能を集結させる事で実現可能な知識集約型の最先端研究です。このような創薬にたずさわる研究者には第一に、それぞれの専門分野における高度な知識が求められます。同時に、開発の過程で生じた困難な問題を的確に考察して、すばやく研究を前に進めることのできる問題解決能力が必要です。これらは複数の研究者を束ねて開発を進めるチームリーダーには特に不可欠な資質となります。専門的な研究知識は、自ら熱心に勉強する事で身につける事ができるかもしれません。しかし、研究における重要な考察力や問題解決能力は、一朝一夕に自分自身で身につける事ができるものでなく、目の前にある課題の本質を見極め、信念を持って研究を進め問題解決に至る実際の研究を通じたトレーニングがとても重要となります。博士課程とは、このように高度な専門知識を身に付ける事以外に、高いレベルの考察力や問題解決能力を磨く事のできる鍛錬の場です。特に、ほとんど前例のない状況から研究をスタートして、未知の新しい発見やすぐれた成果を掴み取る事は、創薬化学者としての自らの基盤を築くための最も価値ある経験となります。博士課程の数年間は、このような“ゼロからイチを生み出す”研究に純粋に没頭できる研究者として成長するための大切な期間です。そして、その成長は研究者として自らの自負を高め、チーム研究においてすぐれたリーダーシップを発揮する能力の向上へとつながります。一方で創薬化学者には、異分野の研究者と協力して、互いに意見を交換しながら研究を前に進める事のできる幅広い知識が求められます。このような学際的な知識あるいは異分野の研究スタイルを修士課程までの短い期間で養うことは一般的に困難です。ここでもやはり博士課程は、創薬化学者として自らの素養を高めるたを養っていくことで、リーダーシップは十分に身についてくると思います。現在は多様性に対して、より寛容な社会に変わりつつあります。欧米の大企業では「多様性は力」だと考えるようになっており、今後は国内にもそのような企業が増えてくると思われます。性格に関してはあまり悩むことなく、自らの知的好奇心に忠実に大学(院)時代を過ごしてください。研究は様々な事象に対して疑問を抱き、その答えを知りたいと思うことから始まります。この好奇心とモチベーションは常に持ち続けてください。新しい発見には苦難と困難が伴いますが、思いがけないところから研究の種が見つかり、自らの手で育てあげることで、その種が研究成果という花となった時の喜びは計り知れないほど大きいものです。めの重要な期間となります。以上のように博士課程は、将来にわたって創薬化学者として活躍するための自己研鑽の場であり、自らの将来のために自己投資する人生の価値を築くための有意義なステージとなります。最先端の解析技術や人工知能(AI)の導入、様々な新しいモダリティの出現など、現在の創薬開発は、ますます高度化の一途を■っています。この流れは今後さらに加速していくでしょう。同様に創薬研究のグローバル化も増進の一途です。この状況に的確に対応するためには、博士課程で十分に研鑽を積み、高度な専門性と学際性を兼ね備えた創薬化学者が必要です。創薬多様化の時代にあっても、薬分子を自らの手で創り出し、その機能を分子構造から見極めることのできる創薬化学者の重要性は長い将来にわたって変わることはありません。製薬産業の博士研究者の割合は、他の化学産業に比べて多いのが特徴ですが、その割合は今後ますます増加していくでしょう。薬学を志す学生の皆さんには、世界有数の創薬大国である我が国の将来を担う創薬化学者としての活躍を期待します。そして、日本発の創薬ドリームを自らの手で実現して下さい。そのために、自らがどのような進路を選択すべきなのか?をしっかりと考えましょう。20%15%10%5%0%出典「科学技術研究調査結果」(総務省統計局)化学工業電気機械自動車主要製造業の研究者総数に占める博士号取得者の割合医薬品
元のページ ../index.html#15