創薬化学のすゝめ
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〜研究や勉学へのアドバイス〜実りあるキャンパスライフのために高校までの学校教育は、教育学を学んだ教員資格を持つ教師が学習指導要領に基づいて決められた授業を進めるため、全国の生徒はほぼ同じ内容を学ぶ受動的な学習でした。これに対し大学では、研究者が教員であり専門分野に関連する領域を自由な形で授業(講義)します。学生は所属学部の専門知識として必要となる科目や自身で興味のある科目を受講することになり、能動的な学習へ変わります。学年が上がるごとに専門性は増し、最終学年では研究が中心となります。大学院への進学により、さらに高度な専門性を身に着け、研究と言う場で実践し、その成果を社会の発展に役立たせる能力を培うことができます。研究とは、未知のものに対峙し新しい発見に繋げる高度に知的な生産活動です。これまでに学んできたすべての知識を総動員し、応用的能力へと展開することが要求されます。応用的能力として専門知識はもちろん重要ですが、専門以外の知識や手法が役に立つこともあります。十分な知識の裏付けがあれば、時には今まで正しいと考えられてきた情報に疑問を抱くことができる能力もつき、その疑問に基づいた仮説をいくつものエビデンスを重ねて立証すれば新発見へと繋がります。自身の新発見で社会貢献ができたら、素晴らしいと思いませんか?このような研究の入り口に立つのが学部の最終学年で、進展させていくのが大学院です。大学院では、「目的を定めて自ら計画・実行・考察する…」と言う能動的なプロセスを繰り返し続けていくことで、研究者として必要な論理的な思考能力を身に付けていきます。「受け身」のままでは貴重な大学生活を無駄にします。研究者は、新しい発見や価値を生み出すため、最先端の研究知識や技術を吸収し、自らの能力を常にアップデートしていかなくはなりません。これには、様々な学問分野の基礎を広く深く学ぶことが求められます。天然物化学から始まり低分子化合物を主流としていた従来の創薬開発が、現在では劇的に変化して多様化し「創薬モダリティ」という言葉が日常的に使われるようになりました。創薬は哲学とは異なり、医薬品を輩出するという明確なゴールがあります。これまで克服されてこなかった疾病に対する予防や治療に向けてのアプローチには、既存の手法の革新的な改良のみならず、未だ達成されていない新たな創薬モダリティの実現も期待できます。特に21世紀になってから、中分子、抗体や機能性タンパク質などの生物製剤、目覚ましい発展を見せている核酸、さらには細胞までが「創薬モダリティ」となり治療・予防に用いられています。このように医薬品がどのように多様化しようとも、その基本構造は有機化合物やその集合体です。医薬品のみならず生命機能に不可欠なたんぱく質、糖、脂質、遺伝子を構成する核酸などの生体分子はすべて有機化合物であり、生体内の化学反応による合成と分解をうけて機能を発揮しています。つまり、有機化学をしっかりと学ぶことは、医薬品と生体分子の構造と機能を分子レベルで正しく理解することにつながります。また、その基礎を習得する事で、新しい創薬モダリティの実現や創薬研究の進化にも対応可能となります。創薬には、医薬品と生体分子との相互作用、薬物動態(ADME: 吸収、分布、代謝、排泄)の理解が必要不可欠ですが、これらもすべて化学構造で理解できる現象です。すなわち有機化学の知識があれば、医薬品の持つ多様な“機能”を、化学構造をベースとして統一して理解することが可能になります。製薬企業で活躍している研究者および採用担当者の方々から、大学・大学院での研究や勉学での心構えに対する助言をもらいました。それらは大きく分けて以下の3点にまとめることができます。① 思考力と行動力:目的や仮説の設定・研究手法の提案・得られた結果の考察・問題解決のためのアイデア提案・多角的アプローチの実践、これらのことを具体的に考え実践できること。② 共同研究:分野の異なる研究者との目的達成に向けた円滑な共同作業。③ 幅広い興味と知識:自身の専門分野以外にも得意分野を持つこと。専門以外の領域に関心を持ち学び続けること。これらの能力を身につけるためには、先に述べた「行動を伴った能動(積極)的学習」がとても重要です。いくつかの点は、所属研究室によっては実践が難しいかもしれませんが、努力目標として心がけることは必要です。その他、製薬企業で活躍している方々からの助言として、学生時代に特に必要と思われる心構えを以下に記します。① 企業内外の様々な人々との共同作業が求められ、自身の専門分野外の人達と円滑に議論ができるような広い知識とコミュニケーション力とを持つことも重要です。これらは、分野を超えた各種セミナーや学会等に積極的に参加し発言することを心がけることで身に付くと考えられます。② 英語力向上に関しては、AIの進化に伴った言語のシームレス化(自動翻訳など)が進む事が確実である点を考慮しますと、自身が伝えたい主張が論理的に正しく英語で表現されているかを見極められる能力を磨くことが重要です。日常的に英語のみなら

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