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くすりの科学



新しいくすりへの挑戦
効き目の確かなくすりを得るために、これからの医薬品開発は、病気の原因や進行過程をよく研究し、くすりの作用点を考えて開発を進めることが重要になっています。このような考え方での医薬品開発には、ライフサイエンスの進展(薬学はライフサイエンスそのものです)とそれに伴い進歩したバイオテクノロジーを応用できるようになったことが大きく影響しています。
2005年に望まれる新薬への期待
◆社会環境の変化は新しいくすりを要求する
今日、結核や赤痢などの伝染病が猛威をふるうことはなくなりました。また、乳幼児の死亡率も著しく低下しました。これは、栄養状態の改善や上下水道の普及など衛生環境が飛躍的に向上したことに加え、良いくすりができたことや医療技術が急速に進歩したためと考えられます。このような社会環境の変化により、人間は、逆にこれまで顕在化していなかった病気に悩まされるようになりました。エイズや慢性肝炎のどのウイルス性疾患、老年期痴呆、アルツハイマー、骨粗鬆症、心筋梗塞などの心疾患などがそうですが、これらに対する効き目の確かな新薬が望まれています。
現在問題となっている主な疾患とその克服の可能性、望まれる対応
◆最新のテクノロジーは創薬の概念を変える
バイオテクノロジーは、病気の発症の原因解明、DNA診断、遺伝子治療、生体内の微量生理活性物質(直接医薬品となります)の遺伝子組み換え体による大量生産、病気のモデル動物の作製などに応用されています。さらにバイオの進歩により“rational drug design”(合理的な薬剤設計)が可能になりつつあります。その病気に特有のレセプターや酵素の存在もわかってきたのでコンピュータグラフィック技術を応用して、論理的にくすりをデザインすることが可能になっています。
一方、くすりを病巣部へ特異的に運ぶためのDDS(薬物送達システム)技術の開発にも注目が集まっています。最新のテクノロジーを駆使して治療の効果を高め副作用を軽くする試みがなされています。また、新薬の開発には、煩雑なテストが必要ですが、アッセイ・ロボットの出現はこのような煩雑さから研究者を開放しつつあります。こうした事実は、今後、「くすり」づくりのシステム全体を変えていくと考えられます。
新しい薬への挑戦 抗エイズ薬を例として
HIV(Human Immuno Deficiency Virus) 感染に起因する後天性免疫不全症候群、と言うより、AIDS:Acquired Immuno Deficiency Syndrome) といったほうがわかりやすいかもしれませんが、この病気はウイルスの感染によって起ります。
ウイルスは、宿主細胞に寄生し、宿主細胞を利用して増殖します。細菌などの微生物であれば抗生物質などで殺すことができますが、それ自身が代謝能力を持たないウイルスに対しては有効なくすりは極めて少なく、そこがウイルス病克服のための問題点となり。ウイルスを撲滅しようとすると、往々にして宿主細胞、すなわち我々の身体に危害を加えてしまうのです。従来、ウイルス病(たとえば天然痘)に対してはワクチンにより免疫をつけ予防する方法が取られてきました。しかし、エイズウイルスは突然変異の頻度が高いなどの理由で、ワクチンがすぐに効かなくなってしまうため、従来の方法でエイズウイルスを撲滅することは困難なのです。

◆抗エイズ薬の標的部位
エイズウイルスの感染・増殖を抑えるには、図に示す@〜Eの各段階でくすりを作用させることが考えられます。このうちBの段階で有効なくすりが日本人研究者によって発見され現在も使用されていますが、副作用や耐性(同じくすりを使い続けると効かなくなること)のため理想的なくすりとはいえません。現在、最も脚光を浴びているのがEの段階に作用するくすりの開発です。この段階は、ウイルス固有のプロテアーゼ(蛋白分解酵素)という酵素がウイルスの構成成分を作り出すところで、このプロテアーゼの働きを止めることができればウイルスの増殖を抑えることができます。エイズのくすりとして今求められているのは、エイズウイルスのプロテアーゼの働きを抑えるくすり、つまりプロテアーゼ阻害薬なのです。
HIVの増殖サイクルと主な抗ウイルス薬のターゲット
 
人類の前にたちはだかるエイズ以外の難病に対しても新しいくすりの発明、発見に大きな期待が寄せられています。以下にその中の主なものについて現状と今後の見通しについて紹介します。
◆がん
がんは我が国の死因統計の第一位を占めています。抗がん薬の副作用は大きな問題ですが、がん細胞のみを狙い撃ちするターゲット療法や、細胞のがん化機構を抑える療法、あるいはがんの転移を抑制する療法などが普及すれば、がんの化学療法の新しい曲面が開かれると期待されます。
◆循環器疾患、糖尿病
高齢化社会が進むなか、心疾患や脳卒中など循環器疾患がますます増加しています。発症後の治療だけでなく、主要な原因である動脈硬化の予防、治療薬の開発が注目されています。現在、コレステロールの生合成を阻害する薬物の開発が精力的に行われており、HMG-CoA還元酵素の阻害剤が臨床の場で使われています。今後は、生合成ばかりでなく、コレステロールの体内での吸収、分泌、排泄、蓄積などに着目した薬剤、さらにトログリセロールやリポ蛋白といった危険因子を低下させる薬剤など、動脈硬化の根本に迫る薬剤の開発が待たれます。
動脈硬化と関係が深く、成人病の中で重要な位置付けにあるのが糖尿病です。従来インスリンによる治療が中心でしたが、新しい作用機序の薬剤開発が活発に行われており、患者の状態に合わせた治療が可能になりつつあります。最終的な課題である合併症(腎症、網膜症、神経障害など)予防に有効な新薬の開発が期待されます。



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