トップページ > 薬学と私 > IHI播磨病院 診療技術部部長 西田英之先生「ラジオパーソナリティを20年演って改めて思うこと」

薬学と私 第53回

 幼少期、いわゆる田舎で過ごした私は、農作業を手伝い、家の裏の田んぼの間を走り回って遊んでいました。帰宅後、夕食を掻き込むように食べ、「よく噛んで食べなさい。」と言われたことが今となっては懐かしい一コマです。そして、急いで食べ過ぎ、お腹が痛くなったときには、祖父が日ごろから軒下で乾燥させた「ゲンノショウコ」を煎じてくれました。飲んだ後、しばらくすると不思議とお腹の痛みが収まり、子供心に祖父が凄い人に思え、また「ゲンノショウコ」はお腹に効くんだなあと思ったものです。
 また、小さなころからラジオは身近なものでした。農村の有線放送電話から町内放送やラジオが流れていました。ラジオからは最先端の情報が流れ、それを聴くことで流行を仕入れながら育っていきました。ラジオが流れている生活というのは、聴いていないようで聴いているものです。このようなラジオの利用法が自然と身についていきました。

 薬をはじめとして自然のモノ全般に興味を持ったのは、祖父から飲まされた「ゲンノショウコ」だけではありません。現在も住んでいる相生市若狭野は、昔から農業が盛んなところです。そんな中、農薬を散布したり肥料をまいたりと化学物質も身近なものでした。農薬がきつかったのか田んぼの虫だけでなく魚たちも全滅してしまっているのを経験し、化学物質に興味を持ちはじめたこと、そして自然の草木も薬に利用されていることを知ったことで薬学に進学したいと思うようになりました。
 大学入学後はクラブ活動で放送部に入部し、昼休みを利用して校内ディスクジョッキーや放送劇を行うなど、楽しい学生生活を送りました。相槌や間合いとか、映像のない音声だけでの表現の基礎はこのときに叩き込まれました。
 卒業後薬剤師となり、当初は発酵関係の会社に就職し、紅麹系色素の液体での大量培養に没頭していました。粉まみれになった同僚の顔が赤くなってきたのをヒントに培養がうまくいった時のことは40年たった今も鮮明に思い出します。
 その後、地域医療で活躍したいと考えるようになり地元の播磨病院に就職することになりました。時はまさに「見える薬剤師」を目指しており、そのアピールとして昔から自分の中で身近に感じていたラジオの利用を行うようになったわけです。

 毎月最終月曜日午後2時15分。JR神戸駅前にあり近畿圏を広くカバーするラジオ関西。この海の見えるスタジオで、パーソナリティーの谷五郎さんと向かいあって番組はスタートします。
 それに加えて「ばんばひろふみ!ラジオ・DE・ショー」(パーソナリティー:ばんばひろふみ氏)に春・夏・秋・冬、合計で1年に16回、それぞれ1回15分の生放送を行っています。
 放送では、パーソナリティーとのトークを展開しつつ、その季節に注意すべき疾患の薬物療法や、薬剤師業務に関する内容を織り交ぜながら、分かりやすく解説しています。出演後、「ラジオ放送を聴いて受診した。」と窓口でおっしゃる患者さんもおられ、手応えを感じているのと同時にラジオという媒体を改めて見直す機会にもなっています。
 根底にあるものは、「薬剤師の仕事を一般市民に知ってほしい」という思いです。最初のパーソナリティーの第一声は「病院に薬剤師っているの?」でした。確かに医薬分業が定着しており、入院でもしない限り一般の方々が病院薬剤師と接する機会はほとんどありません。ラジオ放送に薬剤師自らが出演し、くすりの話題などを分かりやすく解説して薬剤師の認知度を高めることで、「薬剤師のイメージを変えたい」と思っています。もちろん「薬の使い方を正しく知っていただく」ということが基本です。

 番組で取り上げるテーマは様々です。薬剤師業務はもちろん、認知症、禁煙、水虫、不眠症、アレルギー、災害と薬、新薬の紹介など幅広いものを取り上げています。話す内容は、中学1年生程度が理解できるようにかみ砕いて伝えるように工夫しています。新鮮味を保つため打ち合わせは行わず、番組はほぼアドリブで進行します。パーソナリティーの興味に沿って質問が投げかけられますが、生放送、しかも15分と限られた時間で待ったなしの状態です。話が脱線したり、思いもよらない方向から質問がきたりもします。持っている知識を総動員して対応することになり、治療費のことについてはもちろん、一般常識も広く知っておかないといけません。スタッフの反応を見ながら話がうけなければ他の話題に転じる機転も必要です。生放送に穴を開けられないプレッシャーもあり、喉の調子にも気を遣いますがこのスタイルが自分には合っていると思っています。

 番組を行っていますと、医療のことだけ、薬のことだけを知っていてもパーソナリティーもリスナーも納得してもらえません。患者さんもそうですが、理屈ではなく直感的に感じたことでリスナーは反応されます。正しく直感していただくために、わかりやすい言葉で話すことは基本中の基本となります。そのうえで考え方の順序についても導いていけるよう会話を転がしていく必要があります。
 そのためには日ごろから視野を広く持っていろんな分野に興味をもち情報を仕入れていくことが必要です。子供のころにラジオを通じて行っていた「聴いてないようでも聴いている。」ことも役立っています。

 現在病院では、薬剤科や臨床検査科など7セクションを統括する診療技術部部長として、他職種と機能的に連携することを重点に働いています。毎日連携を行う上で欠かせないことは、やはりコミュニケーションにつきます。
 一方、仕事から離れると、農業、漁業、林業の第一次産業にもどっぷり浸っています。勤務が終わり薬剤師会の会合が終了した夜遅くにでも畑仕事をやります。
 これからは新たに薬用植物の栽培に挑戦してみたいと考えています。他にも釣り、天体観測、蝶の観察も続けています。気持ちは学生時代のまま。
 時間は作るもの、人生は楽しむものです。