トップページ > 薬学と私 > 医薬情報研究所 (株)エス・アイ・シー 堀美智子 先生「山に向かう!」

薬学と私 第4回

明日は今日の夢 新聞記者への志望

 岐阜の田舎に育った私の周りは、女は短大まで。そんな風潮があった時代です。一人っ子として育った私に対して、両親は一人で生きていけるように。そのためには教育と資格が何より大切と考えて進学を勧めてくれました。アナウンサーにあこがれていたのですが・・・。両親の思い。そして数学と化学の成績がよかった(他が悪すぎたといったほうが正しいのですが)といったことから薬学部を選びました。薬剤師がどんなことをする職能かを知ることも無く・・・。

理系出身だからこそ味わえる取材の面白さ

 私の薬剤師としての原点は、国立名古屋病院の薬剤部長を勤められ、後年、名城大学薬学部の教授として、薬剤師教育に大きな功績を残された恩師二宮英先生から受けた教育にあります。病棟薬剤師として30年前に二宮先生から受けた教育。それは“情の教育”でした。「階段の内側と、外側。内回りは患者さんに、君たちは外回りを行きなさい。」階段の上り下りの最短距離は患者のために。「愛されるより愛すること。慰められるより慰めること。理解されるより理解すること。」「患者は一人一人個別的存在」、患者を思いやることの大切さを伝える大きな言葉です。

座右の銘「艱難汝を玉にす」「どんなに難しくても諦めるな

 「薬剤師で生きるのではなく、薬剤師として生きてください。」薬剤師資格で生きるのではなく、薬剤師として貪欲に知識を吸収しそれを患者に生かしてほしいと言われた言葉。「薬識」も二宮先生の造語です。二宮先生の教えを胸に仕事を続けてきました。今は、薬局を経営し、そこから得た情報を基に、書籍やデータベースの作成に取り組んでいます。添付文書に記載された副作用。その情報の後ろに、かけがえのない命を失った方がいらっしゃるかもしれない、そんなことに思いをはせながら。同じ副作用で苦しむ人がないようにと・・・。

多彩なサイエンスがそろい,生命・医療をベースにつながる,薬学の魅力

 「山に向かう!」

 何もかもうまくいかなかった時。友人から教えられた夏目漱石の「行人」の中の一節。『向うに見える大きな山を、某月某日を期して自分の足元に呼び寄せる。とマホメットが公言する。当日集合した群集を前に三度号令したが、山は動く気色がない。そこで、彼は「約束通り自分は山を呼び寄せた。然し山の方では来たくないようである。山が来て呉れない以上は、自分が行くより外に仕方があるまい」と言って山に歩いて行った。』誰にも理解されない時、相手を理解しようと歩み寄る・・・。「山に向かう…!」自分から。

「昨日は今日の記憶,明日は今日の夢」

 薬剤師は、いつも薬(化学物質)というフィルターを通して患者を見ることが大切です。サプリメント、一般用医薬品、医療用医薬品全てに精通することが大切です。バイタルサインのチェック、薬物代謝酵素の遺伝子検査、PT―INRの検査・・・。薬剤師が積極的に取り組むべきことです。薬学部で習うことに何一つ無駄はありません。日本は、これから世界に類を見ない高齢多死時代を迎えます。2009年の死亡者数は114万1千人。2038年に死亡者数は170万人とも予測されています。病院のベッド数が現在より増えることはないでしょう。その時、どこで、どのような死を迎えるのでしょうか。薬剤師不要論や、薬剤師失業時代とマスコミが取り上げています。しかし、これから迎える日本の医療に、薬剤師の活躍の場は溢れるほどあります。疾病の予防に、早期発見に、治療、死を看取る場にも。どうぞ、待っていないで自分から歩いていく薬剤師に成長されることを期待しています。