トップページ > 薬学と私 > 漫画家 山下友美 氏 「どんなに無関係に思える物事にも意味がある。活かすもムダにするのも自分次第。経験は芸の肥やし」

薬学と私 第33回

 調剤の現場を目の当たりにしたのは、近所の小さな小児科で女医さんが、乳鉢で粉薬を交ぜ薬包紙に包んでいたのを見たのか初めてでした。幼心にも、それは魔法使いのようでインパクトがあり今も脳裏に焼き付いています。
 現在生業としている「漫画の創作」に関しては、まだ趣味の領域で自己流で描く一方、都立小石川高校(現在はスーパーサイエンススクール指定の都立の中高一貫校・小石川中等教育学校)に進学。当時から理系に力を入れたカリキュラムが組まれており、理系に進む生徒が多い中、生物担当の担任教師から『薬学部』を薦められ、共立薬科大学(現在は慶応大学薬学部)に進学。卒業後院内薬局の薬剤師になりました。

 薬科大学卒業後は院内薬局の薬剤師を数年勤め、そこで患者さんとの係わりと、現場での医師・看護師・検査技師さん達との連携プレーの大切さを学びました。
 その後専業漫画家になりましたが、相手が患者さんから読者さんに変わり、日々新しい情報と技術を学び、納期を守り信頼を保つという意味では、仕事に対する姿勢はどちらも変わらないと感じています。
 近年、中世風のファンタジー「薬師アルジャン」(秋田書店刊)、日本の御伽噺風の「妖怪と薬売り」(角川書店刊)、「Gペン潜入記~薬を巡る旅」(密林社)など薬や薬剤師のルーツを絡めた作品等を発表してきました。
 「漫画の創作」は、エンターテイメント性も要求されるので、薬や薬剤師等の業界をそのままリアルに描くことは企画の段階でなかなか実現は難しいのですが、また新たな切り口で、薬学の世界の一端を表現し、一般の方に知っていただけたらと思っています。

 現在と違って、両親が「漫画を書く」という事に理解がない世代でしたので、まず薬剤師になり自立し、その後漫画家になるという、出版業界において、私は遅い漫画家デビューとなりましが、漫画家になるまでに経験したことが逆に作品作りに役に立ちました。
 一つの仕事に生涯一筋にまっしぐらというのがプロとして好ましい道ではあるのですが、希望通りに事が運ばなかったり、まったく違う道を遠回りせざるを得なかったり、まっすぐに進めないケースの方が現実的に多いのでは…と思います。今は『どんなに無関係に思える物事にも意味がある。活かすもムダにするのも自分次第。経験は芸の肥やし』と、興味のないものでもチャンスがあれば、ネタを拾いに、知らない世界に飛び込んだり、異業種の方とお会いしてお話を伺うようにしています。

 医療分野にまだ未知の部分がたくさんあるように、薬学も未知数だと思っています。私を含めて、薬学を別な分野に活かしている方もたくさんいらっしゃいます。勉強も遊びも、成功も失敗も、どんなことも絶対無駄にはならないと思っています。六年制になり、私達の経験していないことを学んでいる新世代の薬剤師さん達に期待しています。