年会 Pharmパスポート 学術集会カレンダー 創薬セミナー 薬学教育 生涯研鑽

薬学研究と研究者検索 薬学大学 薬学用語解説

今月の薬草 健康豆知識 薬学昔むかし 薬学への招待

入会のご案内 長井研究奨励 賞

 
トップページ > 創薬と治験 > 薬物動態研究

製薬企業での薬物動態研究

第一三共(株)研究開発本部 薬物動態研究所 粕谷敦

 生体に投与された薬物の多くは、体内で、吸収され、組織に分布し、代謝され、排泄されるという過程をたどります。それぞれの英語の頭文字をとってADMEと呼ばれるこれらの過程での薬物の濃度変化を解析するのが、薬物動態研究です。医薬品や候補化合物について薬物動態を調べ、さらに薬物濃度と薬理効果との関係を解析すること(薬力学研究)で、副作用を防いで十分な効き目を得るのに適切な投与量、投与経路、投与間隔などを決めることができます。また薬物相互作用、つまり薬の飲み合わせによる影響について、調べることもできます。

 医薬品の候補については、最終的にはヒトでの薬物動態を臨床試験の中で調べる必要がありますが、その前に実験動物や組織などを用いて充分に検討します。また、最近では、それらのデータを基にヒトでの薬物動態や薬力学をシミュレーションして、より安全かつ効率的に臨床試験ができるようにする研究も重要になってきています。

 一方、創薬の比較的初期の探索研究において、候補化合物のヒトでの薬物動態を予測して、より望ましいものを選択したり、さらにはよりよい薬物動態をもつように化学構造を変換したりするのも、薬物動態研究の重要な部分です。探索研究では、薬物の標的となる生体分子に強く作用する候補化合物を選択し、それをより高い薬効と安全性を持つ化合物に変えていくのが一般的です。その際には、薬理活性と並行して、ADMEや毒性に関連する性質を調べて特徴を明らかにし、どのように改善すべきかをあわせて検討します。例えば、消化管からの吸収には薬物の溶解が必要ですが、溶解性が低すぎて吸収されにくいと考えられる場合、脂溶性を下げ水溶性を上げるように化学構造を変えて、吸収を改善しようとします。また、薬物が代謝酵素で急速に分解されて濃度が低くなりすぎる場合には、代謝酵素とどのように反応するのかを調べた上で、反応を妨げるように置換基を導入して分解を防ごうとします。薬物濃度が急に高くなりすぎて副作用が出るような場合には、投与される化合物自体には薬理効果がなく、それが生体内で徐々に活性体になり薬効を示すような、プロドラッグ化も検討されます。このように、より望ましい薬物動態を得るために、様々なアプローチがなされます。

 薬物動態を考慮した創薬研究では、さらに、年齢や、他の疾患、人種差、性差、遺伝的な相違などにより、個人間で薬物濃度のバラつきが大きすぎないようにすることで、ヒトで充分な薬理作用を示して副作用や薬物相互作用ができるだけおこらないような候補化合物を探索することも重要になります。例えば、薬物代謝酵素のなかには、遺伝的多型の存在によって人口の何%かで酵素活性が低い方がいる、というものがありますが、そうした酵素で主に代謝される薬物は、同じ用量でも人によって効きすぎて副作用が出やすくなったり、また逆に効き目が弱かったりする可能性があります。遺伝的な相違による個人の作用・副作用の出方の違いを解析するファーマコゲノミクス研究の分野では、作用部位での反応の個人差と同時に、薬物代謝酵素や薬物トランスポーターなどの遺伝的な相違によるADMEの個人差も、重要なテーマになっています。

 薬物動態研究や薬力学研究では、創薬の現場で薬物と生体との関係を解析し、また生体により望ましく作用する化合物の構造を探索するために、有機化学から生化学や分子遺伝学、統計学にわたる幅広い領域の最新の知識が必要とされます。もちろん各研究者個人の知識も必要ですが、様々な専門性をもった研究者間の協力が不可欠になっています。