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健康豆知識

防ごう!受動喫煙 ~たばこはマナーからルールへ~


【はじめに】

 喫煙は、多くの健康被害をもたらすことが知られています。COPD(慢性閉塞性肺疾患)や肺がんなどの、肺の病気や悪性腫瘍だけでなく、全身の血管障害を引き起こして、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めます。さらに、喫煙は、喫煙者本人のみでなく、周囲にいる人が他人のたばこの煙を吸うこと(受動喫煙)によっても健康被害を及ぼすため、受動喫煙への対策が求められています。

 そこで、「望まない受動喫煙」を防止する目的で、健康増進法が改正され、2020年4月より、全面施行されました。20歳未満の方や疾患を持つ方は、受動喫煙の健康影響が大きいことから、すでに、病院や学校、児童福祉施設、行政機関等においては、2019年7月から、原則敷地内が禁煙となっています。4月からの全面施行により、飲食店やオフィス等においても原則、屋内が禁煙となるほか、20歳未満の方の喫煙エリアへの立入り禁止と、その掲示などが定められました。今回の改正では、喫煙者が一定程度いる現状を踏まえて、敷地内禁煙においては屋外に受動喫煙の防止措置が取られた喫煙場所を設置することや、屋内禁煙においては喫煙専用室や加熱式たばこ専用喫煙室を設置することを可能としています。喫煙室を設置する際には、受動喫煙を望まない人がわかるように、施設の入口と喫煙室の出入口に標識の掲示を義務付けています。

【喫煙の健康影響について】

 近年は、喫煙の健康リスクへの注目が高まり、たばこを吸う人の割合は年々減少しています。平成25年度から開始された「健康日本21(第二次)」においては、生活習慣病の発症予防や健康寿命の延伸のために、2022年における成人喫煙率を12.0%、妊娠中や未成年の喫煙を0(ゼロ)にすることを目標としています。現在、習慣的に喫煙をしている成人の割合は17.8%で、男女別にみると、男性が29.0%、女性が8.1%となっています。平成元年の調査では男性55.3%、女性9.4%となっており、30年間で男性は半分近く減少、女性は横這いであることが分かります(2020年厚生労働省国民健康・栄養調査)。たばこの煙には、約5,300種類の化学物質が含まれ、その中の約70種類は発がん性を持つ物質です。これらの物質は、煙が直接触れる口や肺だけでなく、血液を通じて全身の臓器に運ばれ、DNAに損傷を与えるなど、がんの発生原因となります。がん以外にも、因果関係の科学的根拠が十分と判断されている病気として、COPD、呼吸機能の低下、動脈硬化、虚血性心疾患、腹部大動脈瘤、脳卒中、歯周病、2型糖尿病の発症等があります。また、喫煙は妊娠や出産に影響し、早期破水や胎盤異常、早産や死産、低出生体重・胎児発育遅延などを引き起こします。さらに、たばこに含まれている「ニコチン」には強い依存性があり、「ニコチン依存症」を引き起こし、喫煙をやめることを困難にしています。これらの喫煙の健康影響は、年齢が若い人ほど受けやすいことが指摘されています。

 喫煙者が吸う煙を「主流煙」、吸った後に吐きだした煙を「呼出煙」たばこの先から立ち昇る煙を「副流煙」といいます。副流煙はフィルターを通しておらず、燃焼温度が低いことから、ニコチンや発がん性物質、アンモニア、一酸化炭素などの有害物質が主流煙の数倍~数十倍も多く含まれています。喫煙者の周囲にいる人が、副流煙や呼出煙を吸うことを受動喫煙と言い、肺がんや虚血性心疾患、脳卒中、乳幼児突然死症候群(SIDS)、子どもの喘息の既往などの疾患と関連性が明らかになっています。わが国における喫煙による死亡者数は、「能動喫煙」が原因で年間約13万人、「受動喫煙」が原因で年間約1万5千人と推計されています。

【加熱式タバコについて】

 たばこには、様々な形態があります。わが国では、火をつけて煙を吸引する「紙巻たばこ」の形態が主流ですが、2014年に、専用器具でたばこの葉を燃えない温度で熱し、発生した蒸気を吸う形態の「加熱式たばこ」が販売され、現在約25%のシェアをしめています。たばこ会社関連の研究においては、有害物質が紙巻たばこよりも少ないと報告されていますが、いずれも、主流煙にはニコチンやアセトアルデヒドやホルムアルデヒド、ニトロソアミンなどの発がん性物質を含んでおり、健康リスクを判断するためには、更なるデータの蓄積が必要です。受動喫煙についても、喫煙により室内のニコチン濃度は上昇していることから、使用者本人及び周囲の人に健康影響を及ぼすと考えられています。

 海外で使用者による死亡例が問題になっている「電子たばこ」は、香料等を含んだリキッドを加熱して蒸気を吸入する製品で、加熱式たばこと異なり、たばこ葉は使用されていません。海外ではニコチンを含むリキッドが販売されており、注意が必要です。日本ではニコチンを含む製品は販売されていないため、たばこ製品としては分類されていません。

【禁煙支援について】

 禁煙は、性別・年齢・喫煙歴、病気の有無を問わず、健康改善効果が期待できます。喫煙歴が長くても、禁煙するのに遅すぎることはありません。例えば、禁煙1年後で肺機能が改善し、2~4年後で虚血性心疾患や脳梗塞のリスクが約1/3減少します。10~15年で様々な病気のリスクが非喫煙者と同等まで近づくことが分かっています。禁煙は、ニコチン依存症という病気により、自分の意志だけでは困難な人がいます。禁煙補助薬を用いることで、禁煙後のニコチン離脱症状が緩和され、自力の禁煙に比べて禁煙成功率が高くなります。禁煙補助薬には、薬局等で市販されている一般医療用医薬品としてニコチンガムやニコチンパッチがあります。また、一定の条件を満たせば、禁煙外来の保険診療でニコチンパッチやバレニクリン錠を使用することができます。多くの地域では、禁煙支援(サポート)薬剤師や薬局の認定制度があり、専門の知識を持った薬剤師が、禁煙相談や情報提供、禁煙補助剤を使った禁煙プログラムの提供等、禁煙のサポートを無料で行っています。また、必要に応じて病院等の禁煙外来への受診を紹介しています。禁煙したいと思ったら、まず、薬局に相談してみてはいかがでしょうか。

【おわりに】

 2021年には、東京五輪・パラリンピックが開催されます。国際オリンピック委員会と世界保健機構は2010年に「たばこのない五輪」の推進で合意しており、期間中は競技場の敷地内は完全禁煙になります。みんなでルールを守り、受動喫煙防止対策を推進することが大切です。

2020年5月
横浜薬科大学 田口 真穂