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健康豆知識

薬剤師の在宅訪問


【2025年問題】

 「2025年問題」という言葉をご存知でしょうか?団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者になり、医療・介護の提供体制が追い付かなくなるという問題です。75歳以上の一人あたりの医療費は、74歳以下の3倍近くになることから、医療費や介護費用の急増が心配されています。また、現在1500万人程度の後期高齢者が2025年には2200万人にまで増えると言われていますが、病院のベッド数は年々減っています。このことから医療現場は縮小しているのに対し、医療が必要となる高齢者がふえていることから、医療現場がパンクし、最期の場所を確保できない「看取り難民」が大量に発生してしまうことも心配されています。遠い未来のように感じるかもしれませんが、2020年の東京五輪から、たった5年後のことです。

【地域包括ケアシステム】

 こうした状況に対して、国は2025年に向けて「医療費急増問題」に対しては社会保障制度と税制度をまとめて改革することで、社会保障財源を確保する。また、「看取り難民の発生問題」に対しては、高齢者の生活する地域社会で医療と介護を分けずに一体的に地域医療・介護を提供する新しいモデル、「地域包括ケアシステム」を提案しました。このシステムでは、これまでの医療は、救命、延命、治癒、社会復帰を求める「医療機関完結型」の医療であるのに対し、病気と共存しながら生活の質の維持・向上を目指す「地域完結型」の医療へ変えようとしています。
 こうした仕組みの中で、高齢者の医療のほとんどは薬での治療であり、認知機能や身体機能が低下した場合には、何らかの専門家のサポートが必要であることから、薬剤師には、医薬品の専門家として、医療機関だけでなく在宅・介護施設での活躍が望まれています。

【薬剤師の在宅医療】

 高齢者になると複数の病気にかかることが多く、服用薬の種類や数が多くなってしまいます。そうなると薬をうまく管理することができなくなり、服用薬の理解不足や薬の飲み忘れなどが起こると言われています。その結果、飲み残しが多くなり(写真1)、飲み残しの薬による経済損失は何と約475億円と言われています。しかし、薬剤師が実際に患者のもとへ訪問することで原因を探り、例えば薬が飲みにくいようであれば錠剤を粉薬に粉砕したり、薬を飲み忘れてしまう場合には複数の薬をひとつの袋にまとめる一包化や、しるしのつけることができるお薬カレンダー(写真2)を利用して薬の飲み忘れを改善するなど、薬剤師が薬の管理を行うことで約424億円(残薬による経済損失の9割に相当)が改善できるといわれています。
 また、高齢になると、視覚や嚥下の力が低下することで薬が飲みにくくなり、それにより薬を飲むのをいやになってしまうというケースも多くみられます。そのようなときにも薬剤師が患者宅へ訪問することで、どのような飲み方をしているか把握し、飲み方の指導をする、あるいはどのような形態の薬に変えると飲みやすいか判断することができます。

写真1 薬の飲み忘れ

写真2 お薬カレンダー

 それ以外にも、薬剤師は在宅医療で服薬指導を行うことによって、ADLといわれる日常行動動作やQOL(生活の質)の維持を図る、あるいは向上させる役割を担っています。在宅医療を受ける患者の中には、薬の種類が多くなることに伴う飲み合わせや副作用の問題から、全身状態が悪化するケースがみられます。そんなときに薬剤師は直接患者の住まいへ訪問することで、患者の状態を把握し、原因を探り、医師や看護師などの多職種と連携することで改善を図ることができます。また、医療用の薬だけではなく、一般用医薬品やサプリメントなどに関する相談も受け付けることができます。
 以上のことから、薬剤師が在宅医療で薬を管理することにより、看護・介護職がやむを得ず薬を管理している現状を改善することで安全な薬物治療を確保することができるだけではなく、多職種の連携と相互の専門性を発揮して適正な医療・介護を行うことが可能となります。

【最後に】

 このように薬剤師が在宅医療を行うことで、薬に関する多くの問題を解決することができることがお分かりになったと思いますが、「薬剤師が在宅訪問して、何ができるの?」という意見や、「訪問指導を行う薬局がどこにあるかわからない」という声が在宅生活を支える医師、訪問看護師やケアマネジャーなどから多く聞かれるように、薬剤師の在宅医療に関して、今まで広く知られていませんでした。これからは薬剤師の役割について、患者さんだけでなく医師や看護師などの医療関係者や介護福祉関係者へ情報を公開し、薬剤師が在宅・介護施設で広く活躍することを望んでいます。
 「この豆知識を読んでみて興味が湧いてきた」と思った方や、疑問に思ったことがありましたら、お気軽に近くの薬剤師に相談してみてください。


2017年10月
帝京大学薬学部 日下部吉男