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健康豆知識

禁煙補助薬


【はじめに】

 「禁煙をしたいと思ったことはありませんか?」タバコを吸われる方は、多かれ少なかれ禁煙したいと考えたことがあるのではないでしょうか。現在日本では、公共スペースでの喫煙が徐々に制限されてきていることもあり、喫煙者の方が禁煙について考える機会も増えているのではないでしょうか。しかし現実には禁煙を成功させるのは非常に難しいことが知られています。2016年に製薬会社ファイザーが実施したインターネットアンケート調査では、1年間で禁煙に挑戦した人が喫煙者の28%に対して、3ヶ月以上の禁煙に成功した人は、5.6%に過ぎませんでした。このように禁煙が成功しづらい原因の一つとして、タバコに含まれるニコチンによる依存症があると言われています。このニコチン依存症とそこからの離脱を助け、禁煙をサポートしてくれる「禁煙補助薬」について紹介させていただきます。

【禁煙のメリット】

 本題に入る前にまず、禁煙のメリットについてお話させていただきます。いまや日本人のがんの部位別死亡率の第1位である肺がんは、喫煙によって発症リスクが約4~5倍高まります。また日常的な介護を必要とせず健康で自立した生活をおくれる期間(平均自立期間)を比べてみると、タバコを吸う人は、吸わない人より4.4年短いことがわかっています。もちろん金銭面においても、タバコ(430円)を1日1箱吸っている人で計算してみると1年間で約16万円、5年で約79万円貯まることになります。家族で海外旅行に行くこともできますね。

【どうしてタバコはやめられないの?】

 タバコにはニコチンという成分が含まれています。ニコチンは体の中に入ると、神経に存在するニコチン受容体に結合し、様々な作用を引き起こします。その中の一つの作用として、脳内神経にある報酬回路のニコチン受容体を介したドパミン放出があります。報酬回路は何かの欲求が満たされた時もしくは満たされることが期待されるときに活性化される神経ネットワークです。この報酬回路が活性化すると、脳内にドパミン放出され、快感や満足感がもたらされると考えられています。つまりタバコを吸い体内にニコチンが吸収されると、脳内の報酬回路が活性化し満足感が得られるのです。しかしこの報酬回路の活性化は必ずしもいいことばかりではありません。そもそも通常報酬回路の活性化は、タバコに含まれるニコチンではなく、アセチルコリンという脳内伝達物質により引き起こされます。ニコチンはそれを外来性に引き起こしており、繰り返しニコチンを摂取することで、本来報酬回路の活性化により得られる満足感が少しずつ減少してしまいます。結果として、喫煙者はニコチン刺激を求めて喫煙を繰り返し求めるようになります。さらにそのような状態でニコチンが欠乏すると、イライラする、集中できない、眠れない、便秘などの身体的・精神的に不快な症状が引き起こされることが知られています。こういった症状はニコチン離脱症状と呼ばれています。ニコチン離脱症状は喫煙者全員に起こるわけではありません。しかし離脱症状が原因で、喫煙がやめたくてもやめられない状態であるニコチン依存症になってしまう人もいます。

【禁煙補助薬の種類と注意事項】

 現在日本で販売されている禁煙補助するお薬は2種類があり、それぞれ禁煙時のニコチン離脱症状を和らげる目的で使われています
 ひとつ目はニコチン製剤と呼ばれる禁煙時のニコチン不足に対して、ニコチンを直接補うお薬です。このニコチン製剤には、ガムように噛んで服用するガムタイプと体に貼り付けて使用するパッチタイプがあります。ニコチン製剤は禁煙外来にて処方を受けるもしくはOTC薬(市販薬)として購入することで入手することができます。ニコチン製剤の注意事項として、使用時に喫煙をするとニコチンを二重に摂取することになり、多量のニコチンを摂取してしまう恐れがあります。特にパッチタイプはうっかりと貼っていることを忘れて、喫煙してしまう可能性があり注意が必要です。一方でガムタイプの場合には、コーヒーや炭酸飲料など酸性飲料との飲み合わせが悪いことが知られています。ガムタイプを使用する直前や同時にそういった酸性飲料を口に入れると、ニコチンの体に吸収される量が減ってしまい、お薬の効き目が弱くなってしまう場合があります。他にも妊娠中や妊娠の可能性がある人、授乳中の人、重い心臓病を患っている人、急性脳虚血障害と医師に診断された人などは使用できません。
 もう一つはバレニクリンというお薬で、禁煙外来にて処方を受ける飲み薬になります。バレニクリンを服用すると、脳内の報酬回路のニコチン受容体に結合し、それを部分的に刺激することでドパミン放出を引き起こします。結果として喫煙の代わりに脳内の報酬回路を活性化することができます。さらにバレニクリンを飲んでいる場合には、先にニコチン受容体にバレニクリンが結合しているので、後から喫煙でニコチンが入ってきても、それ以上のドパミン放出が抑制されます。バレニクリンの服用の注意事項として、上記のニコチン製剤との併用はできないということがあります。両方使ったほうが禁煙しやすいように思われるかもしれませんが、併用は禁止されています。また眠気やめまいなどがあらわれることがあるので自動車の運転などの危険を伴う機械の操作には注意が必要になります。他にも気分の変化、落ち込みがひどくなるなどの精神的な変化が強くあらわれることがあります。さらに精神疾患や腎臓病を患っている方、妊娠中または授乳中の方はお医者さんや薬剤師さんに飲む前に相談する必要があります。
 今回取り上げたニコチン製剤やバレニクリンは、これから禁煙しようとしている方、禁煙が今までうまくいかなかった方を助けてくれるお薬になります。しかしお薬ですので、上手に使う必要があります。他のお薬を飲んでいる方、持病がある方、使用方法に不安がある方、禁煙の仕方がよくわからない方などは使い始める前に、禁煙外来を受診しお医者さんに相談するもしくは薬局の薬剤師さんに相談をしてみてください。きっと禁煙の強力なサポーターになってくれるはずです。


2017年5月
帝京大学薬学部 樋口 慧