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健康豆知識

メタボリックシンドロームと脂肪肝


【はじめに】

 NAFLD(ナッフルディー)という病名を聞いたことがありますか?
 NAFLDは非アルコール性脂肪性肝疾患の略称です。日常よく耳にする脂肪肝は、NAFLDの病態の一つです。近年、肥満人口の増加に伴い脂肪肝を指摘される人が増えています。脂肪肝を含めNAFLDは、メタボリックシンドロームに関連した疾患です。NAFLDは肝硬変や肝癌に進行するケースがあることから、最近の医療では、NAFLDは治療の必要な病気と認識されています。

【メタボリックシンドローム】

 内臓脂肪面積とウエスト周囲径はよく相関することがわかっています。おへそ周りの腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上に加え、血圧130/85mmHg以上、脂質異常、空腹時血糖110mg/dL以上のうち2項目以上にあてはまればメタボリックシンドロームです。メタボリックシンドロームの要因の中で、肥満がNAFLDの最大の危険因子であることがわかっています。

【NAFLDとは】

 肝障害には飲酒が原因でおこるアルコール性と、飲酒以外による非アルコール性に大別されます。アルコール性はエタノール換算で男性30 g/日以上、女性20 g/日以上、非アルコール性はそれ未満の飲酒量です。ちなみに、純アルコール20 gに相当する酒量は、ビールなら500 mL(中びん1本)、日本酒なら180 mL(1合)、焼酎なら110 mL(0.6合)、ウイスキーなら60 mL(ダブル1杯)、 ワインなら180 mL(グラス2杯)程度です。NAFLDは「組織検査や画像検査で脂肪肝を認め、アルコール性肝障害など他の肝疾患を除外した病態」と定義されています。NAFLD発症の最大の原因は肥満とインスリン抵抗性の2型糖尿病です。NAFLDの病態の一つである脂肪肝は肝細胞に脂肪が沈着しただけの状態で、病状はほとんど進行しないと考えられています。一方、NAFLDの中でも、脂肪変性に加え、肝細胞の炎症、肝細胞障害、肝組織が繊維化した状態まで進んだ病態がNASH(ナッシュ)です。メタボリックシンドロームが原因となる脂肪肝に、細胞にダメージを与える酸化ストレスが加わるとNASHに進行すると考えられています。NASHは肝硬変や肝癌に進行するリスクが高い重症型のNAFLDです(図)。日本では3~10人に1人がNAFLDで、世界的には20~30人に1人がNASHと推定されています。

【症状と診断】

 NAFLDやNASHの大半は無症状ですが、倦怠感、右上腹部の不快感や睡眠障害が現れることがあります。NASHが肝硬変に進行すると、胸や肩などにクモが足を伸ばしたような赤い斑紋のクモ状血管腫や手のひらの周辺部が赤くなる手掌紅斑、腹水や黄疸といった症状が現れます。ALT、ASTなど肝機能の血液検査はNAFLDの診断に有用です。また、腹部超音波検査や腹部単純CTの検査で肝臓への脂肪の沈着を調べることができます。しかし、これらの検査のみでNAFLD、NASHの進展度や重症度は分かりません。繊維化の進行したNASHが疑われる場合は、ヒアルロン酸など肝繊維化マーカーの血液検査を行います。最終的にはNASHかどうかを診断するには、肝臓の細胞を採取し肝細胞の状態を診る、肝生検の検査が必要です。肝生検により、肝細胞の脂肪化、肝細胞の炎症や壊死、肝繊維化の状態がわかります。しかし、肝生検は身体に負担がかかることが課題です。

【治療法】

 肝機能や肝組織を改善するために、食事療法と運動療法による体重減少が推奨されています。食事運動療法を行い、7%以上体重が減少した人たちで肝組織の改善が認められています。NAFLDおよびNASHの改善には、低カロリー、低脂肪の食事と週3~4回の有酸素運動が有効です。またNASHに対しては、食事運動療法に加え、薬物療法が行われます。ビタミンEの投与により肝臓の脂肪化が改善し、肝機能の血液検査値や肝組織の状態が改善されています。この他に、糖尿病の治療に用いられるインスリン抵抗性改善薬のピオグリタゾン、高コレステロール血症の治療薬であるスタチン製剤やエゼチミブ、高血圧の治療に用いられるアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬などが肝機能および肝組織の改善に用いられます。

【予防】

 NAFLDおよびNASHを予防するには、メタボリックシンドロームを改善することです。3~6ヶ月かけて今の体重の5%を減量することにチャレンジしましょう。1ヶ月に1kg体重を減らすことを目標にしてみて下さい。食習慣の改善、積極的に運動すること、ストレスをためない生活がNAFLDおよびNASHの予防と改善につながります。

【おわりに】

 一昔前までは脂肪肝は「食べ過ぎ飲み過ぎによるものですね。」と笑ってすまされていた病気でした。しかし、肝硬変や肝癌に進行する病気が潜んでいるということになると笑って看過することはできません。NAFLDやNASHは生活習慣病の一つです。生活習慣を改善し治療を行うことで、病気の進行を抑えることができます。一度、自分たちの日常の生活を見直してみましょう。健康で長生きするための秘訣は、バランスの取れた食事、適度な運動、ストレス解消と十分な睡眠です。

参考資料 日本消化器学会編 NAFLD/NASH診療ガイドライン2014
     メタボリックシンドローム 厚生労働省


2015年10月
横浜薬科大学 岡田賢二