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健康豆知識

医療用麻薬について


【はじめに】

 皆さんは、「医療用麻薬」にどんなイメージがありますか? 医療用でも「麻薬」と聞くと、怖いもの、手を出してはいけないものと思っていませんか?確かに、乱用で問題となっている麻薬は、中毒症状や強い依存性があり、法律で禁止されています。しかし、痛みを和らげるために使われる「医療用麻薬」はそんなことはありません!正しい使い方をすれば、他のお薬と同じように安心して使用できるお薬なのです。

【なぜ医療用麻薬が必要なの?】

 一般的に、頭痛や生理痛などに対して、バファリンやロキソニンなどのNSAIDs(エヌセイズ)と呼ばれる非ステロイド性消炎鎮痛薬を使うことがあります。しかし、手術の後やがんなどの強い痛みが生じたときには、NASIDsだけでは痛みを十分に抑えることができない場合があります。モルヒネやフェンタニル、オキシコドンなどの「医療用麻薬」は、手術やがんなどの体の組織の損傷によって起こる「侵害受容性疼痛」にとても有効な薬です。これらの痛みをコントロールするために世界中で多くの人たちに使用されています。  痛みはできる限りがまんした方が良いと、誤解されている方はいませんか?実は、強い痛みを我慢することは、かえって体に負担をかけてしまうのです。例えば、ストレスで血圧が上昇したり、術後痛から身動きが取れずにいると肺炎や肺梗塞を引き起こす可能性があります。また、がんの痛烈な痛みにより、食事がとれない、眠れないなどの日常生活への支障が生じたり、体力を失った結果、治療そのものに影響を及ぼすこともあります。痛みを和らげることで体を痛みやストレスから守り、心と体の健全化や治療意欲の向上にもつながります。しかも、慢性的な痛みは放っておくと、痛みを悪化させ長引かせるような物理的変化が神経系に生じることがあり、治療が困難になるので、早めに診断して適切な治療をすることが大切です。

【医療用麻薬の働き】

 私たちの体の中には「β-エンドルフィン」と呼ばれる物質があります。β-エンドルフィンは、脳内や脊髄内の「オピオイド受容体」というスイッチに結合し、痛みを脳に伝える神経の活動を抑制して、強力な鎮痛作用を示します。医療用麻薬も、同様の働きで痛みを抑えることから、「オピオイド鎮痛薬」と呼ばれることがあります。一方で、オピオイド受容体は、脳内で多幸感や依存の形成に作用するA10神経系と呼ばれる部分にも関与しています。健康な人が遊びや快楽で麻薬を使用すると、依存を形成する物質がA10神経系でたくさん放出されます。しかし、痛みがある人では依存を形成する物質が放出されにくくなっており、適切な用法で医療用麻薬を長期間使用し続けても、「中毒」や「依存」になることはありません。医療用麻薬を使用する必要がなくなったときには、医師の指導のもとで徐々に量を減らして最終的に服薬をやめることができます。

【医療用麻薬の開始時期】

 オピオイド鎮痛薬などの医療用麻薬を使うことに対して、最後の手段であるとか寿命が縮まるなどと勘違いしている方がいます。鎮痛薬として医療用麻薬を使うことで、死期を早めることはありません。痛みのコントロールは、死に向かう過程を安楽に過ごすためだけの手段ではなく、先ほどにも触れた通り、治療や生命を支える上でとても大切なことなのです。痛みはがんのどんな時期にも起こり得る症状です。鎮痛薬の種類は、病気の症状や進行状況、寿命によって決まるものではありません。

【主な医療用麻薬の種類】

口から服用するお薬には、錠剤や粉薬、液体の水薬などがあります。他にも、貼るタイプの薬や坐薬などもあります。また、ゆっくり長く効く徐放性の薬と、すぐに効く速効性の薬があります。これらの特徴を組み合わせて、徐放性の錠剤で普段の痛みを抑えながら、突然強い痛みがあらわれた場合に速効性の水薬や粉薬などを服用するといった使い方をすることがあります。また、鎮痛作用を高めたり、副作用を改善するために、数種類のオピオイド鎮痛薬を交代に使っていくことがあります。これはオピオイドローテーションとよばれ、通常、モルヒネとフェンタニル、オキシコドンの3種類の間で行われます。

【正しく安全に使うために】

 痛みは、血液検査や画像などでは測れません。適正な治療のためには、本人から痛みの程度や経過などをきちんとお話頂くことが重要です。痛みの発生具合によって、鎮痛薬や補助薬を組み合わせたり、神経ブロックや放射線治療、筋肉のこわばりをほぐしたりと様々な治療方法があります。伝え方のポイントは、①いつ?(一日中ずっと続いている/体を動かす時に) ②どこが?(場所/範囲や深さ) ③どのように?(鋭い/鈍い/ズキズキ/しびれる/締め付けられる/電気が走る) ④どのくらい?(10段階評価) ⑤治療の効果⑥日常生活への影響や困っていることなどです。正確に表現することは、その後の鎮痛治療に大切な要素になります。また、どのような医薬品にも、多少なりとも副作用があります。オピオイド鎮痛薬も例外ではありません。しかし、副作用はそれぞれの症状に合わせたお薬で軽減することが出来ます。飲み始めには、3~4割の人が吐き気を感じると言われていますが、2週間ほどで身体の慣れが起こって出なくなることがほとんどです。現在では、予防として飲み始めに吐き気止めを一緒に使うことで、吐き気を感じる人はさらに少なくなっています。便秘は、服用中長く続くことが多いため、お通じを良くする薬を使って症状を改善します。また、飲み始めに「眠気」を感じることがありますが、服用を続けているうちに数日で軽くなることがほとんどです。オピオイド鎮痛薬を切り替えることで吐き気や下剤が減る人もいます。自分の身体の具合を伝えて自分に合った治療を探しましょう。

【おわりに】

 日本人の2人に1人はがんを発症すると言われています。がんの痛みは治療できる痛みです。現在、医療用麻薬は疼痛の緩和に欠かせないお薬になっています。正しく使えば安全でとても有用なお薬です。痛みに対しては早くから治療を開始して、身体への過剰な負担を軽減させ、有意義な生活を送りましょう。


2015年5月
横浜薬科大学 田口真穂