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健康豆知識

スイッチOTC薬とセルフメディケーション


【はじめに】

 スイッチOTC薬とはどのような薬を指すのかご存知ですか?“スイッチ”とは切り替えを意味します。“OTC”はOver The Counter(オーバー・ザ・カウンター)の略で、カウンターを介して向き合った薬剤師や登録販売者から直接薬を購入することを表しています。これら単語を組み合わせたスイッチOTC薬とは、医師による処方せんに基づいて使用していた医薬品を転用し、薬局やドラッグストアで処方せんなしでも買えるようにしたものをいいます。スイッチOTC薬の利用はセルフメディケーションの一つであり、セルフケアをすすめる上で大切な手段です。カタカナ外来語が多いのですが、これらの意義について以下に解説します。

【セルフケアとセルフメディケーション】

 “病は気から”という言葉があるように、意識が健康に与える影響は重要視されています。信頼できる専門家の支援を得ることは大切ですが、自分の健康管理を専門家に完全に委ねてしまっては、健康増進に対する主体的意識が低下してしまいます。セルフケアとは、「自分の健康は自分で守り、増進する」という主体的な意識を持ち、自分の体と自ら向き合い、手入れしていくことをいいます。具体的には、栄養バランスのとれた食事、適度な運動や、規則正しい生活を行うことなどを指します。さらにセルフケアには、栄養や睡眠を十分にとるなどして軽度な身体の不調を自分で手当てすることも含みます。これらセルフケアのうち、病気の予防や軽度な疾病の治療のために自分で服薬することをセルフメディケーションといいます。
 運動や食事の管理による健康増進はセルフケアにおいて大切ですが、メニューを決める際には専門家の支援を受けることで健康増進効果は高まります。同様に、薬局やドラッグストアで薬を購入される際には、是非、薬剤師からの助言に耳を傾けてください。薬は正しく使うことで高い効果が期待できますが、間違った用法では健康を損なうことにもなります。また、服薬前後で起きる体の変化は自ら意識的にとらえることも大切で、薬の効果を正しく発揮させ、重大な副作用を防ぐことにつながります。

【スイッチOTC薬の意義】

 軽度な症状を改善したい場合や、生活習慣病の初期段階において自覚症状がない場合、医療機関での受診は遅れがちで、医療専門家による健康管理支援が届きにくい領域となっています。軽度な症状の改善作用や、生活習慣病に伴う症状発現に対し予防的な効果を持つ薬のうち、安全性が確保できると判断されたものをスイッチOTC薬とすることで、薬を利用する上でのハードルが下がり、セルフケアを支援することができます。また、セルフケアを通じて健康増進への主体的な意識を高めることで、結果的に高齢化社会の進行に伴う医療費の増加を抑えることにもつながります。
 スイッチOTC薬は開発時の厳正な臨床試験で有用性が示され、販売後は医療専門家の信頼を勝ち得た薬であることから、適正に使用した場合の有用性は折り紙つきです。ただし、スイッチOTC薬の仲間入りをして間もない薬の場合、スイッチOTC薬として使用する上で注意すべき情報の蓄積が少ないため、使用にあたっては特に注意が必要です。そのため、スイッチ化されて間もないスイッチOTC薬は、正しく用いるための情報提供を薬剤師が行う必要がある“第1類医薬品”に分類されています。
 最近話題となっているOTC薬の全面的なインターネット販売解禁は、安全性確保への懸念から新たなスイッチ化を抑え、結果的にOTC薬の選択肢を狭める可能性があります。そのため、スイッチOTC薬の取り扱いは一連の議論において、焦点の一つとなっています。

【最近のスイッチOTC薬】

 セルフメディケーションを推進するため、スイッチOTC薬の種類や対象となる疾病領域は近年増加しています。
 花粉やハウスダストなどによるくしゃみ、鼻みず、鼻づまりなどのアレルギー症状を改善する薬として、抗ヒスタミン薬があります。抗ヒスタミン薬は脳に届くと眠くなる作用を示し、睡眠改善薬として販売されている抗ヒスタミン薬もあるぐらいなのですが、花粉症の症状を抑えたいときにこのような作用は避けたいものです。最近スイッチOTC薬として販売開始された抗ヒスタミン薬は、アレルギー症状を改善する高い効果が期待できるとともに、眠くなりにくいという利点も持っています。なぜなら、これらの薬は脳への薬の移行量を調節する関所(血液脳関門と呼ばれます)を通過しにくい構造をとっているためです。つまり、眠気を副作用ととらえるならば、これまでの薬と比較して副作用の出にくい薬といえます。
 健康診断などにおいて中性脂肪が正常値よりもやや高め(150mg/dL以上300mg/dL未満)と指摘された方を対象としたスイッチOTC薬も販売が開始され、生活習慣病に関連する日本初のスイッチOTC薬として話題となっています。魚の油の一部に血中の中性脂肪の値を下げる効果があることはご存知の方も多いかと思いますが、このスイッチOTC薬はイワシの油に特に多く含まれるイコサペント酸をイコサペント酸エチルとして高純度に精製したものであり、中性脂肪値を改善する効果があります。ただし、生活習慣病の発症や進行を抑えるには、食生活の管理、適度な運動、禁煙など生活習慣の改善を行うセルフケアが基本ですので、薬はセルフケアを手助けするものだとお考え下さい。また、健康診断等で血液検査を行い、中性脂肪値の改善を確認していくことで自ら体と向き合い、手入れしていく姿勢も大切です。なお、狭心症、心筋梗塞、脳卒中と診断されたことがある人、脂質異常症(高脂血症)、糖尿病、高血圧症で治療中の人や医師の治療を勧められた人は、対象とはしていません。

【おわりに】

 スイッチOTC薬に関するより詳しい情報や、購入に際しては薬局やドラッグストアで薬剤師にご相談下さい。また、OTC薬を服用しても症状が改善されない場合は医療機関を受診する必要があります。軽度な身体の不調を改善したい場合、薬局やドラッグストアに勤務する薬剤師はスイッチOTC薬などの安全で適切な利用法を提案したり、必要に応じて受診を勧めたりする、最も身近なセルフケアパートナーです。


2013年10月
慶應義塾大学薬学部 登美斉俊