新規抗菌薬の開発に向けた6学会提言「耐性菌の現状と抗菌薬開発の必要性を知っていただくために」 : トピックス - 日本薬学会

平成26年5月1日

厚生労働大臣   田村 憲久 殿
文部科学大臣   下村 博文 殿
経済産業大臣   茂木 敏充 殿

公益社団法人日本化学療法学会 理事長     渡辺 彰
一般社団法人日本感染症学会 理事長       岩田 敏
一般社団法人日本臨床微生物学会 理事長   賀来満夫
一般社団法人日本環境感染学会 理事長    小西敏郎
日本細菌学会 理事長                 神谷 茂
公益社団法人日本薬学会 会頭          柴ア正勝


新規抗菌薬の開発に向けた6学会提言
耐性菌の現状と抗菌薬開発の必要性を知っていただくために

【前 文】

今,なぜ抗菌薬における創薬促進が求められているのか

 抗菌薬に対する耐性菌の出現と蔓延は世界的な問題となっています。カルバペネム耐性腸内細菌を「悪夢の耐性菌」として米国CDC(疾病予防管理センター)が大きく取り上げたことからもそれが理解できます。また多剤耐性アシネトバクターやニューデリー・メタロβ ラクタマーゼ産生菌(NDM)はイラク,インド,タイなど中東〜東南アジアの国々において急激に増加しています。さらに,耐性菌が医療機関だけでなく,家畜やペット,食品・食材・飲料水などを介して市中で伝播している事実も明らかとなってきました。

 このような状況のなかで,耐性菌に対する対策がグローバルな視点で展開されだしました。2011 年4 月7 日のWorld Health Day においてWHO は「Antimicrobial Resistance: No Action Today, No Cure Tomorrow」というメッセージを発信しています。また日本学術会議は,2013 年6 月に英国北アイルランドで開催されたG8 サミットにおいて,「病原微生物の薬剤耐性菌問題:人類への脅威」という共同声明を発表しました。その目的の一つとして,“感染症治療薬全般,特に抗生物質の新規開発への投資を諮れるよう,国際社会がその方法や手段を見出してほしい”ことを強調しています。

 耐性菌感染症の制御には,サーベイランスによる正確な疫学情報の把握が必須であり,また効果的な感染対策,適切な抗菌薬療法,ワクチンによる感染症予防など複数の対策を並行して実施していくことが必要です。感染症の治療においては,人類は抗菌薬による多大な恩恵を享受してきました。しかし,耐性菌感染症に対する効果的な薬剤の開発に関しては,残念ながら停滞していると言わざるをえない状況が発生しています。このような背景から,本提言では新規抗菌薬の開発に向けてわれわれが進むべき方向性について抗菌薬開発に関連する学会の視点からまとめさせていただきました。

【国民・社会へのメッセージ】

命を守る感染症治療薬の必要性についてご理解ください

 耐性菌感染症に対する治療薬の開発の停滞が問題となっています。ではなぜ,新しい耐性菌治療薬が開発されないのでしょうか。この問題には多くの要因が関係していますが,その一つとして抗菌薬開発を促進する環境づくりの遅れが指摘されています。欧米では,耐性菌感染症に対する治療薬の開発が国を挙げたプロジェクトとして進行中です。その克服には製薬企業,行政,学会,大学などの研究機関の協力が必須であり,また何よりも国民の皆様のご理解が不可欠です。日本国内では,現在までのところ治療が困難な耐性菌感染症の症例は多くはありません。しかし,海外に目を向けると,NDM(ニューデリー・メタロβ ラクタマーゼ)産生菌やKPC(カルバペネマーゼ)産生菌など新しい耐性菌が次々と出現して大きな脅威となっています。日本でいつ新しい耐性菌の増加と蔓延が生じるのか,われわれは注視していく必要があります。日本で耐性菌感染症が少ないからといって,これに対する対策と備えを怠ることはできません。これまでに日本で開発された世界標準の抗菌薬が世界中でどれだけ多くの命を助けてきたのかをもう一度考える必要があります。この点で,日本の創薬の歴史が医療分野における国際貢献の大事な柱の一つとなっていたことが理解できます。日本が培ってきた創薬に関する技術・知識・経験をどのように役立てていくのか,われわれの知恵と努力が試されていると考えておかなければなりません。

【国・行政へのメッセージ】

抗菌薬開発を促進する施策が求められています

 これまでに日本の製薬企業は世界標準となる抗菌薬を多数開発してきました。しかしそのような企業ですら,最近では新しい抗菌薬の開発に踏み切れない状況が続いています。これは日本だけの問題ではなく,世界中の製薬企業において抗菌薬の開発が持続しにくい環境になっています。このような状況のなかで,米国では2020 年までに新しい10 薬剤を開発することを目標として,行政・企業・学会が連携した活動を開始しました。耐性菌感染症に対する新しい治療薬に対して市場独占期間を5 年間延長するなどのインセンティブを与えるという法律(GAIN 法)がその1 例になるかと思われます。また,日本においてもvalue-based pricing(価値に見合った薬価の算定)という考え方のもとに,薬剤の価値を適切に評価して薬価を考える,薬剤の開発を促進する手段として薬価を設定するという施策が議論されだしました。製薬企業がビジネスの原理で動かなければいけないのは自明の事実です。この点で,成人病治療薬に比べて収益性の低い抗菌薬の開発は,製薬企業にとって研究開発を続けることが難しいテーマの一つになっています。国・行政は,“世界的規模で進行する耐性菌感染症から命を守る”という大義のもとに,抗菌薬創薬が再び動き出す仕組みづくりを考える必要があります。また,世界標準の新しい抗菌薬の創出は,製薬産業という視点からも重要です。これまでに蓄積された抗菌薬の開発に関する知的・人的・物的リソースを生かせる環境づくりが,今求められています。抗菌薬の適正使用の推進と協調した施策により,停滞する耐性菌治療薬の開発と医療費の制御を両立する環境づくりが実現できるものと考えます。

【企業へのメッセージ】

“ALL JAPAN”で創薬促進の仕組みづくりを考える時です

 これまでに日本の製薬企業が築いてきた輝かしい抗菌薬開発の歴史のなかで,貴重なリソースと新規抗菌薬のシーズが蓄積されています。しかし現在の状況は,必ずしも新しい抗菌薬の開発に傾注できる環境ではないこともよく理解できます。より収益性の高い慢性疾患に対する治療薬が,ビジネスあるいは経営の視点から好まれることはある意味当然のことです。しかし,人類の健康と福祉,社会への貢献という視点から考えた場合,耐性菌感染症に対する新しい治療薬の開発は重要な研究テーマであり,決してなおざりにはできない問題であることは皆が認めるところかと思います。これまでに培ってきた感染症治療薬に関する製薬企業のリソースをどう活用していくか,それを次の世代にどのように継承していくか,われわれは真摯に考えていかなければなりません。学会および行政が協力して公平な土俵をつくることにより,関連企業が情報を交換・共有し,新薬開発に関して効果的な協力・連携体制を構築することが可能となります。抗菌薬創薬コンソーシアム構想がその一つのモデルになるかと思われます。現在の厳しい状況を打破し,新しい発展を目指して企業と学会・行政・大学が“ALL JAPAN”として協力する体制の構築が期待されます。

【大学・研究機関へのメッセージ】

新しい抗菌薬候補の探索を進める研究を応援します

 耐性菌に対する抗菌薬の新しいターゲット分子の探索に関する研究は難しい状況にあります。欧米では,いわゆるベンチャー企業が多数存在し,主にリスク性・独創性の高いターゲット分子探索に関する研究が実施されてきました。一方,これまでの日本の創薬に関しては,企業内での新規候補の探索から最終的な抗菌薬の開発まで基本的に自社内で完結する形で創薬が行われてきた歴史があります。しかし残念ながら,日本型のこの仕組みでは新しい抗菌薬の開発が続かない状況が発生しています。耐性菌に対する新しい抗菌薬の開発促進のための方策として,大学や研究機関が企業・行政・学会と連携・協力する仕組みが求められています。前述した抗菌薬創薬コンソーシアム構想のなかで,大学と企業の連携を強化する環境づくりが期待されます。大学の研究室の自由な発想を生かす仕組みが必要とされており,また行政・学会はこれを促進する施策・方策を考えなければなりません。大学・研究機関を含む連携体制の構築により,持続的かつ効率的な抗菌薬開発の環境整備の促進が期待されます。








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