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過去のハイライト

私は桐朋音大出身なので、「音大出身だから感性の経営ができるのですね」と言われることがよくあります。当社が「感性の経営」かどうかは別ですが、古臭いブランドイメージの割には新しいことをやり続けているので、どこか変わった会社だとお感じになるのかも知れません。

 19年前に8代目の社長を引き継いだ時の会社は、当時の年商を超える40億円の有利子負債に喘ぐ瀕死の状態でした。35歳で社長になった私は「この会社は私の代で終わる」と直感し、既にガン患者であった先代社長の父を激しく追及したのです。しかし父は、「全て任せるから思う存分やれ」としか言いませんでした。社長就任後は、先ず営業本部長を兼務し、全国の取引先を訪問して営業面から打開策を探り、後には開発本部長も兼務するなど、決死の思いで経営革新に取り組んだのです。それから19年、借り入れは完済し売上も当時と比較して倍増する勢いになりました。私は改めて、この境遇を与えてくれた運命に感謝しなければなりません。私の場合、10年程他社でのサラリーマン経験はありましたが、確かに音大出身の経営者は少ないでしょう。今までは特に仕事と音楽との関連性は考えて来ませんでしたが、ここ最近音楽と経営についてご質問を受けることが増えたので、改めて考えてみました。

 一般的に思われている程、音楽は感性だけで演奏できるものではありません。曲を演奏する場合、まずは楽曲の書かれた背景や作曲者の意図を理解し、譜面を正確に読み込むことから始まります。楽譜自体はデジタルなので時間軸と音程を正確に理解する必要があります。しかも楽曲の多くは合奏という形で複数のパートから構成されており、最も大規模な組織は100名にも達するオーケストラですが、演奏者それぞれは自分のパート譜しか持っていないので、全員が正確に楽譜を理解しなければ、各パートを組み合わせることができません。全体の設計図である総譜(スコア)を演奏中に見ているのは実は指揮者だけなのです。次に課題となるのが演奏技術の問題です。いかにプロの演奏家であっても、あらゆる曲がすぐに演奏できる訳ではありません。ましてや学生さんやアマチュア演奏家であれば、できない方が普通です。そこで大切なのが計画性です。借に演奏会などを控えている場合、期限までに何としても技術的な課題を克服しなければなりません。やみくもに練習していたのでは間に合わないかも知れないのです。先ずは、出来ない要因を分析し、的確な練習方法を策定する必要があります。頭で楽譜が理解できていなければ、いくら筋肉を動かす練習をしても効果的ではありませんし、要因別に時間をおいた反復練習か集中的な練習が必要なのかを見極めることが重要でしょう。技術面でもかなりの部分が論理的な思考でなければ成立しないのです。
 しかし一方、楽譜に書いてあることだけを正確にトレースしても、決して心に響く音楽にはなりません。楽譜の奥にある作曲者の意図を理解し、数値化されていない表情を加えることで、初めて音楽に“魂”を吹き込めるのです。そして最も大切なことは、聴衆を前にしたとき、いかに客席とステージが一体となり感動を共有できるかということです。

 会社の業務の多くは音楽で言う、譜面を読んで分析したり、技術的に難しい部分のトレーニング方法を検討する、という部分に当たりますが、実はビジネ スの現場でも重要な判断や人的交流の部分は数値で割り切れない「感性」の部 分が多いのではないでしょうか。例えば楽曲の多くは複数人で演奏します。楽 譜に忠実な音を出せば一応形にはなりますが、表情を加えるに従い、微妙な間 合いや音のバランスなど、楽譜に書いていない要素が増えてきますが、そこで 大切なのは、いかに敏感に相手の考えを感じ取り、一瞬の間に「あ・うん」の 呼吸で合わせられるかなのです。営業職などの場合、対人折衝能力で重要なの は如何にお客様の意向を感じ取って対応するかということですが、音楽の場合 とどこが異なるのでしょうか。私も講演など人前で話す機会が多くあり、聴衆 の反応が気になるものですが、聴衆の反応によってはプレゼンテーションの内 容を変えたり表現方法を変えたりということがよくあります。これも演奏と同 じです。しかし意外と学校や企業には「感性」を伸ばす教育プログラムが少ないと感じており、当社も参画している慶應義塾大学院メディアデザイン研究科では、まさにこのあたりを研究しています。

 最近当社には「処方されている沢山の薬が飲めなくて困っている」というご 相談が多くなりました。実は医療用医薬品を処方されている患者さんの半数近 くが7種類以上処方されているというデータが厚生労働省から公表されていま す。ご存知の通り人間の喉は水と固形物を同時に嚥下しようとすると、大きな ストレスを感じるのです。お味噌汁などを頂く際、無意識に具と汁を分けて嚥下 していることからも分かります。しかし服薬時は無理に水と固形物を同時に嚥 下しなければなりません。介護現場でも、止むに止まれず砕いた錠剤やカプセ ルを外した中身をお粥にかけることがありますが、薬の機能が失われては服薬 の意味がありません。確かに処方箋には書かれていませんが、是非患者さんの 顔をご覧になり、例えば多剤を服用せざるを得ない患者さんには、「服薬補助剤」をお勧め頂くなど心を込めた服薬指導をお願い致します。

 私は本年9月より、「厚生労働省社会保障審議会医療保険部会」に日本商工会議所の専門委員として参加していますが、際限なく増え続ける医療費や制度の実態を目の当たりにして改めて大きな危機感を感じています。セルフケアの推進による疾患の重症化防止や在宅時のOTC医薬品活用など、制度に負担を掛けない施策が望まれますが、医療の専門家でもある薬剤師の皆さんに是非ともご活躍頂ければと思っています。