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過去のハイライト

 プライマリ・ケアという言葉は一人歩きしているようです。日本プライマリ・ケア連合学会(以下PC連合学会)はこう示しています。
 「人々が健康な生活を営むことができるように、地域住民とのつながりを大切にした、継続的で包括的な保健・医療・福祉の実践及び学術活動を行うことを目的とする。」。
 米国国立科学アカデミー医学部門は1996年に以下のように定義しています。
“ Primary care is the provision of integrated, accessible health care services by clinicians who are accountable for addressing a large majority of personal health care needs, developing a sustained partnership with patients, and practicing in the context of family and community”
日本語訳は医師の世界では、『プライマリ・ケアとは、患者の抱える問題の大部分に対処でき、かつ継続的なパートナーシップを築き、家族及び地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される、総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービスである』が使われています。ここでいうcliniciansとは臨床家とか医療人と訳する方がいいのかもしれません。米国では医師に関わらず独立して患者のケアを行う医療従事者が存在するからです。主な概念は五つにまとめられています。Ⅰ.近接性、Ⅱ.包括性、Ⅲ.協調性、Ⅳ.継続性、Ⅴ.責任性の五つです。最近では家庭医療についてContextual Careを含むべきだという主張があります。PC連合学会の名誉理事長・前沢政次先生から、『あたたかな想像力を持ち、患者の境遇に共感し、そばにいる医療』ということを教えていただいたことがあります。各国はそれぞれに独自の医療制度を持ち、おのずとその解釈は多様化し意味する幅は広くなっています。これが含むものはそれぞれの国における医療制度によって様々なのです。これからも変わっていくでしょう。

 薬剤師がこの中に、つまり患者のケアを行う医療従事者の中に含まれるべきだと私は考えています。もちろん、医療行為と定義してしまうと法的な意味も加わりますので、その領域は狭くなりますが、広義の意味で継続的な服薬指導、その折の患者からの相談、調剤薬局における医療相談・健康相談、あるいはもっと広げて言えば健康増進活動なども含む地域のヘルスケアの担い手としての主な職種の一つであることは間違いないのです。つまり、PC連合学会が長い歴史の中で言い続けてきた住民を真ん中に置いた多職種連携に関わる職種です。

 PC連合学会が創設を主導し強く関わり運営の実務を行っているプライマリ・ケア認定薬剤師制度は、薬剤師の認定制度についての第三者評価機関である「公益社団法人・薬剤師認定制度認証機構」により、医療系学会として初めて「特定領域認定制度」としての認証を2011年2月21日付で受けました。特定領域認定制度は一般の薬剤師研修認定制度より領域性・専門性が高く、いわば上位に位置する認定薬剤師制度です。
 この制度は薬剤師の資質向上とわが国のプライマリ・ケアの発展に寄与することを目的としています。地域を基盤として継続的に展開される包括的、ならびに全人的なプライマリ・ケアについて、その知識、技能および態度を修得することを目指しています。プライマリ・ケア領域の研修の受講、所定の単位の修得および試験により本学会が適当と認めた薬剤師をプライマリ・ケア認定薬剤師と認定しています。このことは地域のプライマリ・ケアにとって薬剤師が欠くことが出来ない専門職であることを、単なる言葉から具体的なアクションとして示したものです。
 この認定制度については、PC連合学会はより支援を強化する方向で進めていますが、制度の成否は認定を受けられた薬剤師の方々一人一人の思いにかかっています。どうかプライマリ・ケアの現場に一歩を踏み出して欲しい。困難な道であるかもしれないけれど、私たちと一緒にその困難さを共有し、踏み出して欲しいのです。そして、現場での困難さを私どもへ伝えていただくこともお願いいたします。
 その一歩によって、地域における薬剤師の役割を広げていただきたいのです。

 さて、多職種協働ほど実際の現場で難しいものはありません。しかしながら、以下の日本の医療の喫緊の課題を、例えば医師のみ、例えば看護師のみ、薬剤師のみで乗り切ることは不可能です。喫緊の課題とは、

  • 1、日本の減少する人口、人口構成の変化、つまり高齢化と少子化による担い手不足、
      人口の偏在、それにともなう医療施設の偏在
  • 2、東京に代表される大都市において想定しうる医療の問題
  • 3、多疾病罹患高齢者の増加
  • 4、認知症の増加
  • 5、高度化する医療と国民の期待値
  • 6、医療財源の確保
  • 7、貧富の格差と世代間の格差
です。

 私たち医療職には、これらの課題を乗り切るための、まさに協働力が試されています。医療職の総力をあげて立ち向かわなければ解決不可能なのです。
 これからはプライマリ・ケアの現場における医療のどの部分をシェアするかにおいて多様な選択肢が出てくると考えられます。週に数時間のシェアでもそれらが集まれば大きな力になり得ます。社会に対して何らかの役割りを果たすことは高い教育を受けてきた私たちの使命でもあります。
 薬剤師の地位向上とか、業務範囲の拡大とかは、おそらく一歩を踏み出したあなた方によっておのずと明確になると考えています。まず、地域のプライマリ・ケアに薬剤師が目を向ける、そして一歩を踏み出すことです。